LUM No.74 (18.12.20)

人権侵害を防ぐ手立てを講じないまま
新しい在留資格「特定技能1号・2号」創設
審議時間たった35時間、与党またも強行採決!
世論の80%は「今国会で成立させる必要はない」なのに

 第197臨時国会に提出された出入国管理及び難民認定法「改正」法案は、12月8日未明、参議院本会議で採決が強行され、自民党・公明党・日本維新の会などの賛成多数で可決、成立しました。
 暴挙としか言いようがありません。日本社会に大きな影響をもたらすことになる重要法案を、衆参合わせてたった35時間の審議で決めてしまうなんて。しかもこの法律は具体的には法案成立後政省令で決めるという、中身のない法案でした。野党議員の質問にも「関係各省と相談しながら適切にしっかりと対処いたします」というだけ。しかしその大雑把な法律でも、危惧される点がたくさんあります。

 第1に、技能実習生が特定技能1号に無試験で移行できることです。技能実習制度は、これまで母国への技術移転であり、国際貢献だとされてきました。実習生が帰国せずに日本で単純労働者として働く道を開くことは、これまでの建前をみずから投げ捨てたものであり、整合性がないことを通り越して支離滅裂です。

 第2に、技能実習制度と同じような制度設計がされていることです。この制度は受入れ機関(つまり受入れ企業)に対し、特定技能1号外国人への支援を実施することを求めていますが、登録支援機関という組織(これについての規定はまだない)に委託すれば支援したとみなされることになっています。今後登録支援機関が技能実習制度における監理団体の役割を果たすことになるだろうことが容易に想像できます。

 第3に、分野によっては、受入れ機関は派遣会社でもいいとされていることです。当面は派遣労働は農業だけに限定されるようですが、将来的には各分野に波及していくことは間違いありません。日本社会での派遣の広がりを見れば明らかです。

 第4に、家族帯同が許されないことです。5年間は家族と暮らせないなど、人権侵害としか言いようがありません。

 第5に、雇用の調整弁にされることです。在留期間の更新は、原則1年とする方針であるとされていますが、それ以下でも認める方向が出されています。まさに雇用の調整弁です。
 その他、ブローカー排除の規制がないこと、雇用主変更の規定がはっきりしていないこと、技能実習生よりさらに多くの借金を背負って日本に来ると考えられることなど、問題点はいくつもあります。
 今後とも注視していかなくてはなりません。

技能実習生からの移行予定が100%の分野も
技能実習制度の建前崩れる!支離滅裂な制度設計

 政府の頭の中はどうなっているのか、疑いを持ってしまいます。技能実習制度を維持するなら、「特定技能」制度と技能実習制度は別のものでなければなりません。まちがっても技能実習生を無試験で移行させるなどという発想は出てこないはずです。整合性が取れないなどという程度のものではなく、支離滅裂です。

技能実習生からの移行

技能実習生からの移行見込み

 その上、実習生からの移行でほとんどすべての人手不足を補おうという分野が5分野もあるということを、衆議院審議の中で、共産党の藤野議員が明らかにしました(別図参照=しんぶん「赤旗」より抜粋)。

 山下法務大臣が、「施行が遅れると万単位の実習生が帰国してしまう」と発言するわけです。
 技能実習制度と「特定技能」制度は両立しません。技能実習制度は直ちに廃止すべきです。

これまでに450人もの実習生の死亡が国会で明らかに

 技能実習生の死亡問題が、社会問題として国会やマスコミで大きく取り上げられたのも初めてのことでした。LUMはこの問題を以前から重要視し、機関紙に掲載するなどしてきましたが、なかなか解決の手段が見つからず、有効な対策が立てられませんでした。

 一番の問題は死亡原因の約3割が脳心臓疾患だということです。溺死や自転車事故が話題になっていますが、長時間労働をはじめ、劣悪な労働環境の中で、過労死が強く疑われるこの事態を放置することなく、再発防止の対策が立てられることが重要です。


技能実習生の労働相談2件

 技能実習生の相談が2件入りました。1件は東京都大田区のベトナム人5名、もう1件は東京都江戸川区のベトナム人3名で、ともに建設職種です。

その1 連続27日間の労働、休日は月2回、家賃のピンハネ

 ベトナム人のAさんは連続27日間、Bさんは連続26日間働かされています。休日は月2回ということも珍しくありません。その上残業代の未払いがあります。
 この会社は横浜の工場で配管を製造し、それを全国の現場で敷設する仕事で、現場は岩手県、山形県、新潟県、愛知県など広範囲にわたっています。

 岩手県や山形県に行くときは、夜中の2時半に会社に集合し、車で現地に向かいます。名古屋は3時、1番近い現場でも朝6時半には集合します。当然ここからが労働時間ですが、残業手当はほとんどついていません。

 わずかに2時半と3時集合の時だけ2時間の残業がついているのみです。まったく足りません。今年1月から2月にかけて27日間の連続勤務を強いられたAさんは、この間に少なくても12回(本人が覚えていないこともあるので)朝早く集合させられました。
 そして連続勤務の後の2月18日は休日でその翌日は名古屋にいくために3時に集合させられているのです。よく病気にならなかったものです。

 Bさんは、26日間の連続勤務の他に13日働いて1日休み、また13日働いて1日休むという働き方が常態化していました。
 これで賃金は最賃ぎりぎり、組合は労働基準監督署に申請し、解決を図りました。

 その上、家賃のピンハネがありました。実習生は5人いっしょに会社が契約した古い1軒家に住んでいて、この家の家賃は85,000円でした。
 ところが会社は、5人それぞれから35,000円を家賃として天引きしていたのです。実習生たちに「電気代や水道代などもこの中に入っているのか?」と聞くと、「それは請求書が来て自分たちで払っている」というので、「じゃあどうしてこんなに引かれているのか?」と聞いても「わかりません」というばかり。

 5人から35,000円ずつ徴収すれば合計175,000円になります。85,000円の家賃を払って残りの90,000円を着服していたことになり、犯罪です。
 組合は会社と交渉し、これまで不当に控除された分を返金させるとともに、適正な家賃控除に変更させました。

その2 フォークリフトによる積み込み作業のはずが実際はゴミの分別

 東京都江戸川区に住む3人のベトナム人実習生が働いていたのは、産業廃棄物処理業者の作業場でした。本来産業廃棄物業者は技能実習生を受け入れることはできませんが、建設機械施工職種積み込み作業として実習生を受け入れることになりました。

 3人は、機械操作を学ぶために日本に来たのに、実際には産業廃棄物の分別ばかりをやらされていました。監理団体は、その事実を知っていましたが、明らかにすると監理団体にもペナルティが課せられると予想されるため、何も対処しようとしませんでした。

 監理団体に勤務していたAさんは、18年の9月半ばにそのことを知り、受入れ企業の社長に連絡を取ることを試みました。しかし、社長は多忙を理由に会おうとしなかったため、Aさんは技能実習機構に通報しました。
 同時に、監理団体と受入れ企業が今後どう出てくるかわからないので、労働組合にも相談したほうがいいと考え、AさんがLUMに助けを求めてきたのです。

 監理団体は自分たちに非はないようなふりをして、「受入れ企業が資格外活動をやらせているので困っている、どうしたらいいか教えてほしい。実習生たちを帰国させてもいいだろうか」と入国管理局に相談したようですが、入管は「帰国はダメ、別の受入れ企業を探すように」「監理団体で探せなければ、機構で探すから帰国はさせないように」との指示を出しました。

 その後、受け入れ先は二転三転しましたが、最終的に愛知県の会社で実習を続けることになりました。結果として組合が入らなければならない事態は避けられましたが、Aさんが親身になって実習生に寄り添ったからこその成果でした。
 一方で、監理団体は実習生の味方ではなく、保身と儲けに走る団体だということがさらに明らかになった事案でした。


第18回LUM定期大会開く
懇親会では仮放免を勝ち取ったクルド人家族の元気な姿も

 11月25日(日)、LUMの第18回定期大会が行われました。入管法改訂法案の審議が行われている真っ最中で、活発な意見交換が行われました。提案された議案はすべて採択され、次年度も頑張っていこうと決意を新たにしました。

 定期大会のお楽しみは、なんといっても終了後の交流会です。毎年シャハさんが作ってくれるカレーがとてもおいしくて、みんな「今年はどんな味かな」と期待しています。昨年はかなり辛かったのですが、今年はほどよい辛さでした。他にもたくさんの料理が並び、楽しい時間を過ごしました。

 外国人組合員も元組合員も多数参加してくれました。今年は、入国管理局の不当な強制収容に抗議して、署名活動に取り組んだクルド難民の家族も参加してくれました。みんなで仮放免を喜び合いました。
 また全労連が駅で配布したティッシュをみて組合に相談に来た、中国人のSさんの参加もうれしいことでした。

2 0 1 8 年 度 役 員

執行委員長 島倉 昌二
書記長   本多 ミヨ子
会 計   (書記長兼任)
幹 事  菅沼 櫻子
     田波 紀夫
会計監事 上野 節子
     大角 繁夫

協力幹事 大熊 博(元東京地評)
     梶  哲弘(全国一般)
     久保 桂子(東京地評)
     黒田 健司(元国公労連)
     小林 雅之(公務公共一般労組)
     松澤 秀延 (元日本クルド友好協会)
     森  治美(全国一般)
     山口 文昭(元新聞労連)


(ご報告)みなさんのカンパで新しいエアコン買いました!

 事務所のエアコンが不良のところ、みなさまの暖かいカンパのおかげで、新しいエアコンを購入することができました。本当にありがとうございました。
 これで夏はぽたぽた水が落ちる音を聞くこともなく、冬は風の向きを調整することができ、職場環境が格段に向上しました。感謝、感謝です。


編集後記
入管法改定とクルド人3家族の仮放免について思うこと

 外国人労働者問題がこれほど大きく取り上げられ、国民的関心時になったことは初めてではないでしょうか。入管法改定法案はそれほど大きな重要法案だったのです。それを数の力で押し通してしまうなんてまさにファシズムの再来を思わせるような国会情勢でした。

 野党は共闘してがんばりました。立憲民主党の有田芳生議員の質問も心を打ちましたが、分けても共産党藤野保史議員、仁比聡平議員の奮闘は目を見張るものがありました。連日行われた国会前集会での各団体の決意表明も熱の入ったものでした。

 11月8日に野党がおこなった合同ヒヤリングでの実習生の涙の訴えを、マスコミが大きく取り上げたことから、「実習生の現状をこのまま放置しておいて、多くの実習生の移行が予定されている新しい在留資格を創設するなど拙速だ」の世論が大きく巻き起こりました。

 失踪者から聴取しているはずのデータを提出させたことがさらに反対運動に弾みをつけ、そのデータが改ざんされていたことがさらに世論の怒りをかいました。
 聴取票を提出せよとの野党議員の要求に「閲覧だけ、コピーを取ることもダメ」との政府の対応に議員が手分けして2,870枚のすべてを写しとったことも大拍手でした。後で狭い部屋で机が足りず、床に座って書き写した議員もいたという話を聞き、本当に頑張ってくれたと感謝の思いを強くしました。法律は成立しましたが、闘いはこれからです。

 11月25日の定期大会に、入管収容施設から解放された3人のクルド人とその家族のみなさんが参加してくれたことは本当にうれしいことでした。面会に行った時の暗い表情とはまったく違う明るい元気な姿を見て感無量でした。でもまだ仮放免の身なのです。いつまた収容されるかという不安は消えてはいません。3家族だけでなく、多くの難民申請者に難民認定または在留特別許可が出ることを願ってやみません。(本多)

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