LUM No.84 (22.5.25)

日本語でなければ申請を受け付けない戸田市
緊急小口資金で埼玉県に緊急に要望書を提出

 コロナ禍のもと生活が困難になったとき、一時的に生活支援のために緊急小口資金の借り入れを自治体に申請できます。ところが、その申請書が外国人にはとても記入しづらことがわかり、さっそくLUMは5月24日、この問題で埼玉県に改善を要望しました。

 腰痛で休業しているフィリピン人Mさん(埼玉県戸田市在住)から電話が来ました。「いま腰痛で休業している。傷病手当金の入金が遅れているので生活が困難になっていて、電気代も払えない。どうしたらいいか」と切実な訴えでした。

 本多書記長が「自治体に緊急小口資金借入を申請したらどうか」とアドバイスし、5月10日にMさん母娘とともに戸田市の社会福祉協議会を訪ねました。申請に必要な書類一式をもらい、日本語が書けないMさんに代わってMさんの娘が記入しようとすると、担当者から「本人が書くこと。代筆はだめ」と注意されました。

 しかも、名前以外はすべて日本語で書くことや、住所は住民票に記載された通りに記入するように指示されました。日本語が書けないMさんには無理な話です。今年日本の大学を出て、漢字も書けるMさんの娘さんをわざわざ連れてきたのです。

 本多書記長が事情を話して、代筆を認めてほしいと強く訴えると、窓口の担当者は上司と相談したものの、担当者は「やっぱり本人が書かなければだめです。娘さんに教えてもらいながら、ここで書いてください」と無理を言うばかりで、いっこうにらちがあきません。

 これでは漢字の書けない外国人には、申請するなと言っているのと同じです。外国人だけでなく、高齢者、病人、障がい者など、自分で書けない人はたくさんいます。誰でも簡単に活用できなければ、コロナで生活が困難になった世帯への「緊急かつ一時的な生計維持のための貸付」(厚生労働省HP)という制度の本来の目的が活かせません。

 こうしたことから、LUMはさっそく5月24日、埼玉県の大野元裕知事あてに要望書を提出し、早期の改善を要請しました。対応した福祉部社会福祉課の田島優子副課長は、「県社会福祉協議会にきちんと伝え、改善するようにしたい」と回答しました。申し入れには、LUMから本多書記長、大熊幹事が参加、日本共産党の村岡正嗣埼玉県議が同席しました。


本多書記長の労働相談日記

(その1)インド人女性のKさん

出産後 育児休暇を取りたいと言ったら
「あなたはもう従業員ではありません」

 派遣社員としてホテルで働いていたKさんは、以前LUMで問題を解決した夫のSさんに連れられて来ました。相談内容は、「出産するとき、事前に社長に『産休明けから育児休業を取りたい』と言ってあったので手続きをお願いしたら、書いた覚えのない退職届を出してきて、もう退職しているのだから、育休など関係ないと言われた」と言うものでした。

 退職届は日本語でプリントアウトされたもので、退職者欄にKさんのサインもありました。しかしKさんは退職する気などありませんので、退職届を書くはずもなく、署名もサインもKさんの筆跡ではありません。Kさん自身の目でそれを確認していることから、会社もしくは会社に指示された誰かが退職届を偽造したことは明らかです。

 組合は、事実関係の確認のため会社側を追及しましたが、社長は「私の目の前でKさん本人がサインした」「夫の暴力に怯え、職場で泣いていることもあった」などとうそと言い逃れに終始し、社長は解決の姿勢を見せません。

 組合は、育児休業がとれていれば雇用保険から支払われるはずだった金額を払わせるために団体交渉でたたかうことにしています。

(その2)ミャンマー人Rさん

簡単なミスに会社は「あやまらなければ支払わない」

 ミャンマー人男性のRさんは、派遣社員として都内で働いていました。21年12月は13日間出勤したのに、12日分しか賃金が支払われてなく、しかも、通勤手当は片道分しかありませんでした。

 賃金計算の単純なミスなのに、「間違えたのは、出勤確認のサインの文字がわかりにくかったからだ」と頑固に主張し、あげくに「Rさん自身に責任がある。Rさんがあやまらなければ払わない」などと開き直る始末です。

 組合は「事務処理を間違えたのはそっちだ。あやまる必要はない」と突っぱね、「どうしても払わないというなら第三者機関の活用を考える」と強く出ると、やっと払ってきました。

(その3)インド人コックのIさん

毎月100時間以上残業しても残業代ゼロ

 インド人男性のIさんは、インドレストランでコックとして9時半から23時まで、週6日間働いていました。休憩時間を除いても毎日12時間労働です。労働時間は週72時間、残業時間は月100時間を超えます。なのに賃金は月額14万円、残業代はまったく支払われていませんでした。

 コロナ禍で客足もとだえ、一昨年20年4月の賃金はゼロになり、5月3万円、6月からは7万円になったものの、こんなに安くては生活できないと店を辞めざるをえませんでした。しかも、閉店時間が早まっても、労働時間は1時間短くなっただけです。

 コロナ禍で経営は大変になったとはいえ、支援金や雇用調整助成金の制度などを活用すれば、賃金の支払いは可能だったはずです。そのうえ、残業代の未払い分はいまだに支払われていません。わたしたちは会社の責任を追及して、未払い賃金を要求して交渉をねばり強く継続しています。

(その4)空港勤務のスリランカ人DさんとPさん

重いスーツケースの上げ下ろしで脱臼・腰痛

 DさんとPさんは、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で成田空港国際旅客カウンターにおける通訳等を担当するために採用され、正規社員として働いてきました。本来の通訳の仕事がないときは、車椅子を使う乗客の介添えなどをおこなってきました。

 仕事では、旅行客の荷物も持ち運ぶこともあって、重いスーツケースを持ち上げたDさんは、肩を脱臼してしまいました。ほどなくDさんには労災認定がおりましたが、同じようにPさんもスーツケースを持ち上げたときに腰に痛みが走り、重い物を持てなくなりました。

 翌日も痛みが治まらなかったPさんは、一人で病院でに行って治療をうけ、診断書をもらって帰ってきました。しかし、会社は労災申請をしてくれなかったことから、松澤委員長を先頭に組合が会社まで足を運んで交渉した結果、ようやく申請、認定にこぎつけました。

 2人ともまだ痛みは残っていますが、交渉では職場復帰に当たっては会社も肩や腰に負担のかからない作業にするなどの配慮を求め、仕事を続けながら体調の回復をはかっていけることになりました。


一人でも多くの難民を受けいれる日本に
5野党・会派共同で入管法改正法案を提出

 立憲民主党、日本共産党、社民党、れいわ新撰組、参院会派「沖縄の風」の野党各党・会派は5月10日、難民等保護法案と入管法改正案を参議院に共同提出しました。21年2月に提出した法案を再提出するもので、同年3月に名古屋入管でなくなったスリランカ人ウィシュマ・サンダマリさんの事件もふまえ、必要な修正を加えたとしています。

 菅内閣(当時)が21年通常国会に提出した入管法「改定」法案は、「難民申請を3回以上行ったものは強制帰国の対象になる」という命にかかわる重大な人権侵害を含んでいました。法案審議のさなかにウィシュマさんの死亡事件が起きるなか、「ウィシュマさんのなくなった原因も明らかにしないままに、さらに問題の多い改定案を通すわけにはいかない」という世論が高まり、国会前ではLUMもふくめて多くの団体・個人が連日座り込みに参加するなど運動は急速に発展しました。

 世論と運動に押されて、政府は法案を取り下げざるを得ませんでしたが、しかし、政府は諦めたわけではなく、7月の参院選後の臨時国会で再提出をねらっています。入管法改悪の火種を残さないためにも、たたかいの新たな発展が求められます。

ウクライナ情勢ふまえて難民保護法案の審議入りを

 ロシアによるウクライナ侵攻が長期化するもと、岸田内閣は人道支援の立場から、ウクライナから逃れてくる人たちを「避難民」という新たな枠組みで受け入れました。避難してきた人々には、特定活動の在留資格が与えられ、日本国内で働くこともできます。

 しかし、政府は「難民」としての入国を認めた訳ではありません。これは日本政府が、戦争や紛争から逃れてきた人は難民にはあたらないとの立場を変えていないからです。難民条約でいう「難民」の定義を、先進国では例のないほど狭く解釈しているのです。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のガイドラインでは、国際的・国内的な武力紛争や戦争から他国に逃れてきている人々もふくめて「難民」と定義しています。実際に、欧米諸国では紛争から逃れた人々を難民と認定しています。日本政府の対応は、国際社会の流れからも立ち後れています。

 問題はウクライナだけにとどまりません。日本にもクルド人を始め紛争から逃れてきた多くの外国人が、難民認定を受けられないまま、就労もできず行動も制限され、不自由な暮らしを送っています。国際的にもきわめて低い日本の難民認定率を改善するため、野党共同で提出した難民等保護法案の国会での審議を求めます。

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