LUM No.82 (21.9.15)

3年間で637人が妊娠・出産を理由に帰国
技能実習生に誓約書を書かせる監理団体も

 技能実習生が妊娠・出産すると強制帰国させられることが大きな問題になっています。実態は明らかになっていませんが、その一端が見えてきました。

 今年3月、立憲民主党参議院議員牧山ひろえ氏が「外国人技能実習制度をめぐる各種のトラブルに関する質問主意書」を国会に提出、「実習生の妊娠・出産や、それを契機とする技能実習の終了及び帰国等について、政府は過去分も含め実態を把握しているか」と政府を質しました。

 これに対する政府答弁書では、「実習実施者又は監理団体が外国能実習機構に対して行った技能実習の実施が困難となった場合の届出のうち、その届出内容から、妊娠又は出産を理由とすることが把握できるものに係る人数は、法が施行された2017年11月1日から2020年12月31日までの間において、企業単独型技能実習生については10人、団体監理型技能実習生については627人である」と回答しました。

 その件数の多さに驚きますが、実際にはこの何倍もあることは間違いないことです。帰国の理由を、「家族と会いたくて精神的に不安定になった」とか、「もう実習はやめると本人から申し出た」とか、監理団体にも企業にも責任がない理由をつけて帰国を迫ることが数多く起こっていると思われます。

■国際社会の批判は避けられない

 女性労働者が妊娠したら産前産後休暇を取って出産する―当たり前の基本的人権です。この問題の根本原因は、国の送り出し機関との間で「妊娠したら帰国する」との誓約書を結ばされ、国に帰されたら多額の借金が返せなくなる不安からです。政府は、2019年3月と2021年2月の2回にわたって「注意喚起」の通達を出しています(別記)。しかし実効性は甚だ疑問です。「こんな問題が起きるのは、人権侵害であり国際的に恥ずかしい」との認識をもち、実習生に寄り添って対応するべきです。

【参考:政府が監理団体に出した通達】

妊娠等を理由とする技能実習生の不利益取扱いの禁止の徹底
及び妊娠等した技能実習生への対応について(注意喚起とお願い)

 技能実習制度において、監理団体及び実習実施者は、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に努める責任があります。また、技能実習生に対しては、日本人労働者と同様に労働関係法令等が適用されます。

<妊娠等を理由とする解雇等不利益取扱いの禁止について>
 婚姻、妊娠、出産等を理由とした技能実習生に対する不利益取扱いについては、2019年3月11日付け「妊娠等を理由とした技能実習生に対する不利益取扱いについて(注意喚起)」により周知したところですが、婚姻、妊娠、出産等を理由として技能実習生を解雇その他不利益な取扱いをすることや、技能実習生の私生活の自由を不当に制限することは、法に基づき認められません。

<妊娠等した技能実習生への対応について>
 監理団体におかれては、入国後講習の機会や、実習実施者への監査等の機会をとらえ、技能実習生に対し、婚姻、妊娠、出産等を理由として解雇等がされることはないことや、妊娠した場合の休業制度や支援制度(技能実習生が加入する健康保険から出産育児一時金が支給されること等)、相談窓口について、技能実習生手帳の該当部分を示すなどして、わかりやすく説明してください。

 特に相談窓口については、外国人技能実習機構の母国語相談窓口のほか、婚姻、妊娠出産等に係る手続きや医療機関の情報等について確認したい場合は、居住する地域の行政機関等が設置する多言語対応の相談窓口を必要に応じて周知してください。(以下略)


ウィシュマさんの尊い犠牲を無駄にしないために
一部のビデオ開示、関係者処分で幕引きは許さない

 スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが、今年3月に名古屋入管局の施設内で亡くなった事件で、入管局は遺族が求めていた施設内でのビデオの一部を開示、8月に最終報告を取りまとめ、名古屋入管局長ら4人を処分しました。
 事件がテレビやSNS上で広まるにつれ、政府への批判が急速に高まり、先の通常国会でも追及が強められました。そうしたもと、与党が頑として応じなかったビデオ開示を実現させ、さらには、政府がねらっていた入管法の改定を許さなかったのは、国民の世論と運動の力にほかなりません。
 しかし、施設内ビデオは全面開示とはほど遠く、代理人の同席さえ認めていません。入管局の最終報告も、虐待的な扱いとウィシュマさん死亡との因果関係にはまったく触れられないなど、きわめて不十分なものです。トカゲの尻尾切りのように、関係者処分での幕引きも認められません。

● 野党共同の「難民等保護法」の成立を

 ウィシュマさんの事件は、氷山の一角にすぎません。『LUM』73号 (18.6.15)で紹介したクルド難民のAさんは、脳腫瘍で放射線治療を受けているさなかに突然、東京入管に収容されました。入管の非人道的な扱いに対して、LUMをはじめ支援団体が署名運動などに取り組み、Aさんは仮放免されましたが、一歩間違えば命を落としかねませんでした。
 第2、第3のウィシュマさんを出さないためにも、何よりも人権尊重を土台に据え、収容施設の医療体制拡充はもとより、収容の長期化を防ぐ実効ある対策が急がれます。そのためにも、野党が共同提出している難民等保護法案のすみやかな審議・成立を求めていく必要があります。

病気の訴えがあっても「何もしない」が日常化
2014年にもカメルーン男性が入管施設で死亡

 東本入国管理センター(茨城県牛久市)で収容中のカメルーン人男性(当時43)が2014年に死亡した事件、男性が施設内で「死にそうだ」と声をあげ、もがき苦しんでいるのに7時間以上放置されたあげく死亡したのです。

 遺族から依頼されて裁判の代理人になった弁護士は「カメルーン人男性は体調不良を訴えていたために医者の診察を受けた後、監視ビデオのある部屋に移されています。収容者の監視の書類には『異状の有無』という欄がありますが、ベッドから落ちて職員が対応した時に『異状有り』としただけで、車椅子から降りて床に寝る、床で横になりながら転がっている、全部『異状無し』です。午前2時半ぐらいまでパンツで床を転げ回りそのあたりで動かなくなって、おそらく亡くなったのではないかと思いますが、その間、ビデオで見ているだけです」と話しています。ウシュマさんとまったく同じではありませんか。

非人道的扱いで13年以降の死亡者は13人にも

 全国の入管内では収容者に対する非人道的扱いが起き続けています。東京入管では2017年6月、虫垂炎の手術をしたばかりのトルコ人男性収容者が患部の痛みを訴えていたにもかかわらず、約1ヵ月もの間診療を受けさせなかった事件がありました。2018年4月には、東日本入国管理センターでインド人男性のディパク・クマルさん(当時32)が、9カ月にもわたる長期収容の末自殺しました。

 2007年以降全国の入管施設内で死亡した収容者の人数は13人におよびます。耐えかねて収容者が抗議のハンガーストライキを決行するケースが急増し、2019年6月には長崎の収容施設で餓死者が出る事態に至りました。

こんな状態は放置できない!

「身体におかしいところあって診察を求めても、対応してもらえないことがよくあります。急にひどい痛みが生じたり発作が生じても、土日夜間は施設内に医者がいないので診てもらえない。外部の医者に診てもらえることもほとんどありません」「体調が悪い振りをしていれば、仮放免で外に出してもらえる、それを狙って大げさにやっていると考えているのです」と、クルド人支援を続けている松澤秀延氏(LUM委員長)は言います。こんな非人道的状態を放置するわけにはいきません。


最近の労働相談より

その1 会社側主張を丸呑み、台湾女性Sさんに不当判決

 東京地裁に提訴して闘っていた台湾の女性Sさんに8月19日、請求棄却の不当判決が言い渡されました。この事件は、留学ビザから技術・人文知識・国際業務へのビザ変更に際し、会社が入管に提出した申請書には「長期採用、月20万円」と書きながら、裁判になると「あれは本人の求めに応じて書いたもので、虚偽」などと言いだし、出来高払い賃金として月25,000円~96,000円しか払わないのは不当だとして、裁判になったものです。

 地裁判決は、「入管に出した申請書は、出入国管理のためのものであり、労働者保護のためのものではない」という不当なものです。そんなことが通るなら、入管には適当に高い労働条件を書いて提出し、実際にはずっと低い労働条件でもいいということになってしまいます。許されることではありません。

その2 パワハラで団体交渉、環境改善を約束させる

 牛丼チェーン店で働いているBさん(インド人)が相談に来たのは8月23日でした。店長からパワハラを受けているというのです。社内にはセクハラ・パワハラ被害を訴える制度があるのでBさんは善処を求めて電話しましたが改善されず、その後Bさんに来た文書はなんと「警告書」。店長の言葉をうのみにして、「無断欠勤が多い」「シフトを勝手に変える」など身に覚えのないことばかりが書いてありました。

 この文書に確認のサインをしろと言われたBさんはサインを拒否、LUMを訪ねてきました。さっそく社長に団交を申し入れたところ、すぐに電話が来て9月6日に団交を持ちました。組合は事実無根の警告書の撤回を要求、合わせて職場環境改善を強く申し入れました。Bさんも同席しこれまで4年間にわたるパワハラの実態を発言、警告書を撤回させ、働きやすい職場環境を作るよう努力することを約束させました。

その3 インドレストランの未払い賃金で都労委に申請

 インドレストランのコックとして働いていたMさん、長時間労働のうえ残業代はおろか賃金まで未払いで、我慢できず退職し、LUMに相談に来ました。会社は代理人として弁護士を立ててきました。ところが、この弁護士が労働法を全く知らない弁護士でした。知らなくても知ろうと努力してくれればいいのですが、組合のいうことを聞こうとせず自分の意見を押し通してくるのです。金額的には何とか合意にこぎつけました。

労働法のイロハも知らない代理人弁護士

 ところが、この際、合意書の作成を相手の代理人弁護士に任せたところ、出てきた合意書は会社および会社代理人とMさん本人が合意するというもので、組合は「立会人」となっているのです。合意書とは会社と組合が結ぶものであることを説明し、やっとまともな合意書が出てきたできたものの、今度は、合意書の調印に本人が来なくては駄目だというのです。「本人の立ち合いは必要ない」といっても聞かず、のらりくらりと調印を引き延ばしました。

都労委の労働者側委員もあきれる

 挙げ句の果てに、「では合意しない。裁判でもなんでもやってください」と言い出す始末で、やむなく東京都労働委員会に仲裁を申請することになりました。予想していたとおり、都労委は1回の審問で終了、代理人弁護士も納得し合意しました。この時、都労委の労働者側委員もさすがにあきれて、代理人弁護士に「あなたの言っていることは組合を馬鹿にしたことになるんですよ」と諭したところ、「馬鹿にする気はなかったんですが・・・」と言ったとのこと。反省してくれるといいのですが。

 

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