LUM No.87 (23.4.1)

岸田内閣が入管法改定案を再提出
法案が通れば3千人が強制送還の対象に

 岸田内閣は3月7日、開会中の第211通常国会に入管難民法「改正」案を提出しました。21年の通常国会に提出され廃案になった法案を再提出するもので、スリランカ人女性ウィシュマさんを名古屋の収容施設内で病死させ、国民的な批判の高まりで廃案となった過去への反省はどこにもありません。

当局の判断で運用できるあいまいな法律

 2年前の法案は、現行は制限がない難民申請の回数を3回目以降は認めず、そのうえ罰則まで設けて強制送還を迫る厳しいものだったことから、難民の支援団体からいっせいに反対の声があがり、野党も共同してこの条項の削除を求めました。

 再提出された法案では、3回目以降の申請でも「相当の理由」があれば、強制送還はしないとする一方で、過去に実刑をうけた人や「テロリスト等」は申請を受け付けず、ただちに送還するという規定を加えました。

 様々な事情から送還を拒否している人は、全国に約3,000人いるとされています。法案が通れば、日本で生まれ育った子どもを含めて、これらの人々が本国に強制的に送り返される可能性があります。祖国を追われた難民にとって、強制送還は命にもかかわります。

 各地で紛争が絶えないなか、欧米をはじめ世界の国々が難民に手を差しのべているなかで、迫害から逃れた難民をテロリストなどと同等に扱い、罰則で脅して本国に追い返すのは世界の流れからも逆行しています。

 新設する「監理措置制度」は、収容の長期化を避けるため、収容施設に代わって弁護士や民間団体等を「監理人」にして監視・監督させ、定期的な報告を義務づけるものです。支援活動の手足を縛りかねないという懸念の声をうけて、監理人の報告義務は限定的にとどめ、法務省は事実上「任意」にすると説明しています。そうした修正を加えても、強制収容か監理措置かの判断は入管庁がおこなう根本的な問題は放置されたままです。昨年11月の国連自由権規約委員会の勧告にも従い、強制収容の判断は裁判所にゆだねるべきです。

「補完的保護」で世界の難民を救えるのか

 ロシアによるウクライナ侵攻によって、日本にも多くの人々が避難してきています。法案は避難民を「補完的保護対象者」として保護する新たな制度を盛り込みました。しかし、ウクライナにとどまらず、シリアやミャンマーなど世界には数多くの紛争地域があるなかで、すべての避難民にこの制度が適用される保証はありません。

 そのうえ、トルコ・シリアを襲った大地震による日本への避難者について法務省は、震災など自然災害の避難者は保護対象者にあたらないとしており、着の身着のままで日本に来た人を追い返すとなれば、人道上も批判はまぬがれません。

 本来は難民に認定すべき人を、「補完的保護対象者」などとしている限り、欧米各国と比較にならないほど低い日本の難民認定率は変わりません。中途半端な制度ではなく、難民認定の基準を抜本的にあらためることこそ必要です。

政府にウィシュマさん死亡事件への反省はないのか

 入管法「改正」案の閣議決定後の記者会見で齋藤法務大臣は、「旧法案に対するさまざまな指摘を真摯に受け止め、(ウィシュマさんの死亡事件をうけて)収容に関する制度は適切な運用を可能とすべく大きく修正を行った」とのべました。

 しかし、問題の根底にある「全件収容主義」は貫かれ、2年前に野党共同で提出した修正要求(申請回数に制限をつけない、罰則の削除など)も門前払いしました。齋藤大臣が胸をはるような「修正」にはまったく値せず、法案がかかげる「共生社会の実現」は名ばかりで、難民を保護するどころか、迫害から逃れて日本に来た人々を排除するねらいが条項の一つ一つに満ちあふれています。

支援団体もマスコミからも法案反対の声

 こうしたもと、年明け早々に法案の再提出が伝えられると、日弁連や市民団体がただちに反対の声をあげ、2月には東京、名古屋、大阪、仙台など10都市で法案に反対する集会やデモがいっせいに取り組まれました。400人が集まった東京・上野の集会には、ウィシュマさんの妹ポールニマさんが参加、「入管には収容や送還に関する法案を提出する資格はない」と怒りの声をあげました。

 また、法案提出直後の全国紙の社説は、「早急な対処が必要なのは、収容手続きの適正化、透明化だ」(朝日)、「人権軽視への反省が見られない改正案は再考すべき」(毎日)、「認定のあり方そのものを見直す必要がある」(日経)と主張、その他、地方紙も含めて一つとして法案に理解を示す社説はありません。

LUMはただちに闘争本部を設置

 LUMは入管法の改悪に反対して、松澤委員長を本部長とする闘争本部を設置、3月初めに東京地評とも共同して、法案提出に反対し入管制度の改善を求める要請書を岸田首相あてに送付しました。また、全労連が取り組んだ岸田内閣あての団体署名は、短期間のうちに30を超える都道府県組織から集約されました。

 法案提出の強行に際しては抗議声明を発表するとともに、3月15日の国会行動ではLUMを代表して本多書記長が力強く決意表明、幅広い労働組合・団体の結集を呼びかけました。入管法「改正」案は、4月の統一地方選挙後の本格審議が見込まれます。世論と運動を背景に与野党の鋭い対決は必至で、終盤国会における法案審議の一つの焦点となることが予想されます。

力を合わせてふたたび廃案に追い込もう!

 2年前に法案を廃案に追い込んだ国民共同の力をふたたび呼び起こし、岸田内閣に成立の断念を迫り、入管法改悪の火だねを完全に消し去る必要があります。その運動を、国際基準に沿った難民保護法制の確立をはじめ、日本で暮らす外国人命と人権を守るたたかいへと発展させることが求められています。


本多書記長の労働相談日記

(その1)メキシコ人女性Gさん

解雇権限のない上司から「クビ、明日から来るな」

 Gさんは日系2世の定住者です。メキシコ人の夫と子どもの3人で暮らしています。仕事は羽田にある近代ビルの清掃で直雇用です。メキシコでは10年間小学校の教師をしていたGさん、母国語であるスペイン語と隣国の言語である英語は堪能ですが、日本語が十分でないため、同僚との折り合いは必ずしもよくなく、時には小競り合いもあり、大声で怒鳴られることもありました。Gさんは職場でいじめられていると感じ、東京都大田区にある多言語相談窓口に相談に行き、そこからLUMを紹介されたのです。

 直属の上司は清掃部門の女性のチーフで、シフトを組んだり、仕事の割り振りをするだけで、人事上の権限はありません。Gさんは、常日頃シフトが少ないと上司に訴えていました。週3、4日午前中4時間程度の収入では、生活できなかったからです。しかし上司は取り上げてくれません。本社の責任者にも訴えましたが、変わりませんでした。何回もいいましたがまったく変化がなく、Gさんはだんだんストレスがたまり、眠れないなどの変調も起き始めました。

 そんなある日、ささいなことからチーフと言い合いになった時、上司が突然「あんたクビ!クビ!、明日から来ないで」と怒鳴ったのです。おどろいたGさんはすぐ組合に知らせてきました。

経営者の言い逃れに動画で対抗

 組合は、そのときにGさんが撮った動画を見て、「クビ!」と言われたのは間違いないことをしっかりと確認したうえ、会社との団体交渉に臨みました。しかし、会社側は「クビなどとは言ってない。『このままだとクビになっちゃうよと言っただけ』とチーフから聞いている」と言い張り、そのうえ、「Gさんはいつも嘘をつく」とありもしない事実を並べ立てました。

 この日は会社の言い分を聞くことが主目的だったのでその場では反論せず、この職場での他の問題といっしょに後日要求することにしましたが、心の中では「嘘つきはどっち!」と思ったものでした。Gさんはついに我慢できず職場をやめ、今は別の職場で元気に働いています。組合は本人の意思を尊重し、事実を明らかにした上で、職場環境改善を申し入れました。

(その2)スリランカ人男性Dさん

労災認定されても強い痛みに苦しめられた

 技術人文知識国際業務の在留資格で来日したDさん(32歳)は、派遣会社を通して草津温泉のホテルで働いていました。草津でも有数の大きなホテルで、外国人観光客も多いことから、通訳を主とする業務を行うことになっていました。実際には食事時のバイキングの手伝いなど、本来の業務とは違う仕事もまかされましたが、Dさんは真面目に働いていました。

 2019年8月、食事に使うトレイをカートに積んで運ぼうとした時、突然カートの左手前のキャスターが外れ、カート(約16㎏)と上に積んであったトレイ(約80㎏)が、Dさんの上に倒れてきたのです。Dさんはカートに押し倒されるような状況で後ろに倒れ、頭や肩を打ち、手をついた時に左親指付根を骨折してしまったのです。

 長い療養を経て2022年3月、まだ強い痛みは残るものの症状は固定したと診断され、障害等級11級となりました。しばらく仕事をすることは出来ませんでしたが、最近ではようやく痛みもだいぶ軽減し、本来の在留資格に見合う仕事をしています。

会社側は「労災になったこと自体おかしい」と強弁

 事故の原因はカートのキャスターが外れたことです。明らかに会社が点検を怠った安全配慮義務違反でした。2年以上夜も眠れないほど強い痛みに苦しめられたDさんは、派遣会社とホテルを経営している会社を相手に裁判を提訴しました。

 ところが両社の言い分は驚くべきものでした。「キャスターは外れていない。外れたとしてもカートは倒れない」「本人が転んだだけだ」「事故の日には夜8時まで仕事(皿洗い)をしていた」「骨折などしていない」と主張、また事故の時倒れたDさんを起こし、いっしょにカートのキャスターを直したネパール人の同僚まで、「キャスターは外れていなかった。トレイが何枚か落ちただけ」という事実と違う陳述書を出してきました。

 組合は両社の嘘を暴くため同種のカートを購入、カート上に会社側が出してきたトレイのキロ数にあう重さのものを乗せ、Dさんと弁護士も立ち会って実験を重ねました。その結果、予想通りに何回やってもカートは倒れました。労基署が認め、事故当時の医師も認めた事故です。なかったことには出来ません。会社は責任を認め、損害賠償請求に応じるよう求めていきます。


映画案内

カンヌ国際映画祭75周年記念大賞ほか多数受賞
「トリとロキタ」(ベルギー・フランス合同作品)

 ベルギーの名匠ジャン・ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟が監督し、アフリカからベルギーに流れ着いた偽りの姉弟の、強い絆と過酷な現実を描いたヒューマンドラマです。

 地中海を渡りヨーロッパへやってきた人々が大勢ベルギーに暮らしている。少年トリと少女ロキタもベルギーのリエージュへやってきた。偽りの姉弟として生きる2人はどんな時にもいっしょで、年上のロキタは社会からトリを守り、しっかり者のトリは時々不安定になるロキタを支えている。

 ビザのないロキタは祖国にいる家族のため、ドラッグの運び屋をして、お金を稼いでいる。ロキタは、偽造ビザを手に入れて正規の仕事に就くために、さらに危険な闇組織の仕事を始める。ふたりは支え合いながら、出口のない搾取の日々を過ごす。

 他に頼るもののないふたりの温かな絆と、それを断ち切らんとするばかりの冷たい世界。彼らを追い詰めるのは麻薬や闇組織なのか、それとも・・・。

 難民・移民の過酷な苦難を描いたこのドラマは、世界の人々に「同じ人間としてこれでいいのか」と問いかけている。(3月31日から全国で上映中)


編集後記
 いよいよ入管法改定案を阻止する闘いが始まりました。政府はウシュマさん事件の反省もせず、国連の勧告にも耳を貸さず、人権無視、人道上の配慮無視の法案を何が何でも通そうと狙っています。みなさんの力が必要です。法務委員要請行動、国会前行動に参加できる方、ぜひご連絡ください。日程をお知らせします。がんばりましょう。

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