LUM No.90 (24.1.1)

野宿するコンゴ難民をLUMが支援

多くの善意のカンパ寄せられる

 LUMにとって、初めての経験でした。10月初め東京千代田区議会議員の牛尾こうじろう氏(共産党)から、「西神田公園で5人のコンゴ人が寝泊まりしているが、どうしたらいいかわからないので、協力してほしい」と電話がはいり、とりあえず5人にLUMの組合事務所に来てもらい、話を聞くことから始まりました。

 コンゴは熱帯気候の暑い国です。当然、防寒着など持っていません。食料は牛尾議員が千代田区に交渉し、区の災害用備蓄からアルファー米や缶詰の提供が実現しました。寒さ対策として、とり急ぎとりあえずLUMの財政から10万円を支出し、リサイクルショップでジャンバーなどを購入、使い捨てのカイロもたくさん買い込んで寒さに備えました。さらにできるだけ多くの人から支援してもらおうと相談し、1コイン(500円)カンパを呼びかけることにしました。

 ところが、5人の難民が2週間後にはなんと23人に増えました。今も内紛がつづくコンゴでは、反政府活動をしたとみなされて迫害を受け、多くの人がやむなく国外へ非難しています。こうした人たちが助けを求めて、はるばるコンゴから来日してきているのです。

 西神田公園の近くには難民支援協会(以下JAR)があり、JARで難民申請の手続きをサポートしています。行くあてのないコンゴ人たちが、そのまま公園にとどまったために野宿するコンゴ人の数も一気にふくらみました。

 支援しなければならない人数が急増したことと、災害用備蓄品以外の食べ物も食べさせてあげたいとの思いからカンパに力を入れました。幸い、多くの方からカンパが寄せられ、何とか、やりくりできました。

なぜコンゴ難民が増えたのか

 難民申請中の人には、公益法人アジア福祉教育財団難民事業本部(外務省が委託、以下RHQ)に申し込みをし、審査に通れば保護費が出ます。その審査の期間がとても長いのです。通常6か月~7か月もかかることから、その間公園で野宿をつづけることなどできません。そこで、共産党の本村伸子衆議院議員(法務委員)の助けを借りることにしました。

 本村議員は精力的に動いてくれ、10月下旬にさっそく公園で実地調査を実施、その翌日には外務、法務、厚生労働の3省に対して、野宿状態を1日も早く解消するよう強く要請しました。要請には、LUMからも松澤委員長、本多書記長が参加しました。

 11月10日、目白聖公会が一時避難としてシェルターを提供、やっと野宿生活から脱することができ、その後2か月ほどで順番にRHQからの保護費支給が決定、12月7日に全員RHQが用意した宿舎に入ることができました。

 目白聖公会をはじめ、多くの方からのカンパなどでご支援いただきました。役員一同、感謝でいっぱいです。しかし、カンパによる財政支援は限りがあり、いつまでも善意に頼ることはできません。日本を頼ってきた難民である限り、日本政府がきちんと責任を持って支援するのは当然です。

国の難民政策の欠陥が浮き彫りに

 とりあえず仮の宿泊先は確保できましたが、問題は山積みです。まず、3か月後には宿舎を出て、アパートを探さなくてはなりません。最初に入った7人は2月上旬には退去するよう言われていますが、母語がフランス語の彼らは日本語が十分でなく、自分でアパートを探せるはずはありません。今回はLUMがサポートすることにしましたが、本来はRHQがサポートすべき仕事です。

 また、RHQから支給される保護費が、1日わずか1,600円、30日で4万8千円で生活保護費よりも低いのも問題です。これでは日本語教室に通うにしても、授業料、交通費、教材費などの費用までまかなうことは困難です。来日する多くの難民が言語の違いに苦労しています。国の費用で日本語教室を作るなども検討すべきです。

 就労不可の期間が長すぎるも大問題です。政府は「働きたいがために難民申請を悪用する者がいる」などとして、難民申請者の就労を認めようとしていません。生活費を手にすることができない以上、難民申請中に必要な費用を政府が援助すべきです。日本で働きたいために、難民申請を「悪用」していると考えるのがそもそも間違いです。そのことはまた、欧米各国と比べて極端に少ない日本の難民認定数にもあらわれています。


「人材確保」のため外国人労働者の利用を促進
技能実習制度等にかかわる有識者会議が最終報告

 国際社会からも「奴隷労働」と批判されてきた技能実習制度について、見直しを検討してきた政府の有識者会議は昨年11月、最終報告を取りまとめました。報告では、技能実習制度に代わって、新たに「育成就労制度」を創設、3年間の制限があった転籍は就労から1年後に可能としています。政府は最終報告をうけて法案を策定、1月開会の通常国会に提出するとしています。

「国際貢献」の大義名分を放棄

 技能実習制度は17年に施行された法律の附則で、5年を目途にして見直すこととされています。この附則にしたがって政府は、22年12月に有識者会議を設置、約1年をかけて検討を深めてきました。

 有識者会議では、「国際貢献」を掲げて始まった技能実習制度が、人手不足を解消する手段となっていることや、転籍の制限が技能実習生を縛り付け、人権侵害の温床にもなっている実態をふまえて、どのように制度をあらためていくのかが重点的に議論されてきました。

 最終報告では、「人材育成による国際貢献」としてきた技能実習制度の目的を、「人材確保と人材育成」とし、名称も「育成就労制度」に改めるとしています。また、就労後3年間の転籍制限を短縮し、1年後に転籍が可能にすることなどを提言しています。

人権侵害まねく「転籍制限」は温存

 現行の技能実習制度は、「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と法律で明記され、実習生を人手不足の穴埋めとして使うことを禁止しています。ところが、建設や製造分野など入管法が就労を禁止する「単純労働」での人材確保のために、技能実習制度を利用してきたのが実態です。当初は17職種に限定されていた対象職種も、現在では90職種へとなし崩し的に増やされてきました。

 このように、制度の趣旨と実態とが乖離しているなかで、実態に沿うように「人材確保」を新制度の目的に付け加えました。これは、単純労働への抜け道になってきた技能実習制度に対して、政策の転換を迫られたことにほかなりません。

 しかしながら、最終報告でも「様々な人権侵害を発生させ、深刻化させる背景・原因となっている」と言及する転籍の制限は、1年間に期間を短縮したものの、「必要な経過措置を設けることを検討する」として、法案化にむけてはなお流動的です。自民党は、「少なくとも2年間」とする提言を、最終報告の発表後ただちに法務大臣に提出しており、転籍の制限をめぐっては与野党間の論戦の焦点となることが予想されます。

 18年の入管法「改正」をめぐる国会審議では、多額な借金を背負って本国を出てきた実態が、実習生の聞き取り調査で明らかにされ、海外の人材ブローカーの暗躍が問題となりました。転籍の自由が奪われるなかで、実習生の失踪が相次ぎ、パスポートの取り上げなどの人権侵害にまで発展しています。そもそも転籍制限は、憲法で定められた「職業選択の自由」とはあいいれません。

 また、最終報告では現行制度と同様に、家族の帯同は認めないとしています。生活の基盤を築き安心して働くうえでも、家族とともに暮らすことは大切な要件です。技能実習生を労働者と認めるならば、家族帯同を認めるべきです。

小手先の見直しでなく抜本的な制度改善こそ

 このように見ていくと新たな「育成就労制度」は技能実習制度と目立った違いはなく、このままでは名称だけを付け替えたものになりかねず、技能実習制度が持つ数々の問題の解決にはつながらない不十分なものです。

 厚生労働省の試算では、2040年には介護分野で約69万人もの人手が不足するとしています。介護に限らず、建設や農業分野での人手不足は深刻です。その解決策として外国人労働者を利用する狙いが、最終報告には透けて見えます。

 世界に目をむければ、技能実習生にかかわって国連の自由権規約委員会が、「強制労働の被害の適切な認定と加害側の処罰」を日本政府に勧告し、アメリカも「人身取引報告書」のなかで「外国人労働者搾取のために悪用」と批判しています。

 国際社会からも厳しい目がむけられるなかで、外国人技能実習生を使い勝手のいい労働力として利用してきた反省も、30年にわたる技能実習制度の総括すらなく、制度のほころびを小手先で繕うような見直しは認められません。

 外国人労働者に頼ろうとするならば、難民入管法の改正をふくめた抜本的な制度改善こそ政府は行うべきです。その出発点として、見直しなどではなく技能実習制度をただちに廃止するよう求めます。日本で働く外国人労働者が180万人を超えるもと、すべての外国人労働者とどのように共生をはかっていくのか、国政の場での真摯な議論が求められています。


本多書記長の労働相談日記

(その1)中国人男性のHさん

 Hさんは東京都新宿区にあるIT関係の会社に2023年8月に入社しました。データアナリストとして、データを統合・分析し、プロダクトの設計、開発等を行うのが仕事でした。試用期間は6か月で、2024年1月末までです。

 入社してから11月末まで1回も注意を受けたこともなく、順調に仕事をしていました。12月初めに上司が交代してから、同じように仕事をしているのに、3回ほど注意されました。必ずしも納得したわけではありませんが、上司の言うことですから従いました。ところが12月20日頃その上司から「1月末で正採用拒否の可能性が高い」と言われ、理由を聞くと「仕事の理念が合わない」「ミスが多い」と言われましたが具体的な説明はなく、「納得できない」とLUMに相談にきたのです。

 Hさんは留学生として来日、日本の大学を卒業して今の会社に入りました。日本語はとても上手です。この会社、本社は中国にあり、仕事の指示もすべて中国からきます。契約書を見る満了時の解雇は自由だと考えているようです。

 Hさんは、「絶対にこのまま辞めることなんかできない。裁判でも何でもやりたいです」と固い決意です。今は会社の対応を見ている段階ですが、「解雇」などと言ってきたら、すぐ反撃できるよう体制を整えています。

(その2)フィリピン人男性のRさん

 Rさんの職場は東京都港区にあるインターナショナルスクール幼稚園です。Rさんはここでティーチャー及びコーディネーターとして、2022年8月から働いてきました。

 1日8時間を超えて働くこともありましたが、残業手当はついていませんでした。昨年11月、Rさんは意を決して、残業手当がついていないこと、労働量が多いことを内容とする手紙を代表者に送りました。するとその後すぐにミーティングが設定され、代表者を初め3人の役員に囲まれて「尋問みたいだった」と感じるほど責められました。

 これまでも差別的発言はありましたが、このミーティングが直接の原因となり、抑うつ状態に陥ってしまったRさん、医師の診断を受け、現在休業中です。


共同が前進、さらに飛躍をめざす1年に
LUM第23回定期大会を開催

LUM定期大会 LUM第23回定期大会が昨年11月22日に東京都内で開催され、1年間のたたかいを総括するとともに、たたかいの方針を決定しました。

 あいさつした松澤委員長は、「海外から多くの人たちが日本に働きに来ている。外国人との共生がますます重要となっている。そのなかで、LUMの運動を大きく前進させよう」と訴えました。

 来賓の全労連布施事務局次長は、「入管法改悪のたたかいでは、LUMとの協力・共同の関係がかつてなく進んだ。その運動を弾みに、今後とも連携を強めたい」と発言、地方労連でひろがる外国人労働者支援の運動が紹介されました。

 運動方針を提案した本多事務局長は、この1年間のたたかいを振り返り、入管法のたたかいでは、改悪は許したものの、全労連や東京地評との共同が強まるなか、LUMも全力を傾けてたたかい抜き貴重な成果を残したことや、昨年秋のコンゴからの難民支援の運動でも、LUMが先頭に立って奮闘してきたことが報告されました。本多書記長は、「新しいことに挑戦し、一歩一歩運動を切り開いてきた」と強調しました。

 運動方針では、引き続き労働相談を軸に据えながら、組合員の拡大にむけて尽力することを確認しつつ、技能実習生制度の廃止や入管法のさらなる改悪阻止など、今後とも外国人労働者の生活と権利をまもるために全力をあげる方針を決定しました。


編集後記

 本当に貴重な経験でした。LUMはこれまで、難民問題ではクルドの人達に代表されるように、難民不認定とされた人達の人権を守る運動をしてきました。今回のように、難民申請した方達が、これほどひどい状況に置かれていることなど知りませんでした。

 LUMは労働組合ですが、人権に係わる問題は、すべての団体・個人が取り組むべき課題だと考えています。難民申請者が野宿しなければならない「先進国」なんてあるでしょうか。人権からも、人道上もこのままでいいはずはありません。政府に改めさせる運動を強めていきます。

 はじめてLUMに来たとき、「日本の空港に着いたとき、これで命が助かったと思いました。まさかその日から外で寝なくてはならないなんて思ってもみませんでした」と言った言葉が忘れられません。そして、その人がシェルターに入れたとき「みなさんの力がなくては、今も外で寝ていたかもしれません。本当にありがとう」との言葉も。

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