LUM No.94 (25.1.1)

2025年はたたかいの年

阻止しよう!難民申請3回目以降の送還
認めさせよう!希望者全員の在留特別許可

 昨年の衆議院選挙では、国民の力で自民・公明の与党を少数に追い込みました。こうした有利な情勢を活かして、必ず勝ち取らなければならないのは、24年6月から施行されている難民申請3回目以降の人達の送還停止とともに、9月に様々な制約を付けながら認めた在留特別許可を希望する全員に認めさせることです。

 両方とも多大な人権侵害を含んでいます。強制送還が命にかかわることは言うまでもありません。人権の中でも最も尊重されるべき生命の保証をしないというのですから、先進国が聞いてあきれます。

 在留特別許可の線引きも理不尽なものでした。なぜ日本生まれの18歳の在学中の子どもとその親に限定するのでしょうか。子どものいない夫婦だっているし、生まれてすぐ日本に来た子どももいるし、日本で生まれた20歳の人もいるし、命からがら偽造パスポートで入国した人もいるのです。この人達を除外する意味はありません。

 この2つは制度の運用で勝ち取ることができるものです。わたしたちの運動次第で実現は可能です。がんばりましょう。


日本を国際水準へ引き上げよう!
少数与党の有利な条件を活かし
今年こそ懸案事案の実現へ

○選択制夫婦別姓
 選択的夫婦別姓は、婚姻関係にある夫婦が別姓を望む場合に、同姓・別姓のいずれかを強制するのではなく、改姓するかどうか(結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の姓を称するかどうか)を自ら決定する選択の自由を認めるものです。
 夫婦が同姓にならなければ婚姻できない、とすることは、憲法第13条の自己決定権として保障される「婚姻の自由」を不当に制限するものです。
 世界各国の婚姻制度を見ても、夫婦同姓を法律で義務付けている国は、日本のほかには見当たりません。

○個人通報制度
 個人通報制度とは、個人が直接国際機関に人権侵害の救済を求める制度です。個人通報制度は、国連の自由権規約、社会権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、障害者権利条約、人種差別撤廃条約等8つの人権条約に設置されていますが、日本はこれらのどの条約についても、日本に適用するための手続をとっていません。
 G7サミット参加国においては唯一、また、OECD(経済協力開発機構)加盟の37か国においては日本とイスラエルのみが、個人通報制度を有しない国となっているのです。

○国内人権機関の設立
 国内人権機関とは、すべての人が持つ人権を守るために国が設置する組織で、人権が別の誰か(公を含)に踏みにじられたり、奪われたりしないように活動する組織です。日本にいるすべての人が活用できるので、前号で紹介した入国管理庁の「子どもには在留特別許可を出すが親は国へ帰れ」などという「子どもの親と一緒に暮らす権利」を定めている子どもの権利条約に違反する事案、子どもがいないから許可を出さない等の事案も申し立てることが出来ます。

○死刑制度廃止
 死刑制度には、看過できない重大な問題がいくつもあります。しかし政府は「2019年の世論調査で「死刑もやむを得ない」と答えた人の割合は80.8%」とし、国民は死刑制度を望んでいるとしています。しかしその4割は「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と答えていいます。この結果を、将来の死刑廃止の当否という観点から集計すると、死刑廃止を許容する者が41.3%、死刑廃止を許容しない者が40.0%となります。つまり、将来の死刑制度存否に関する世論は拮抗していると評価できます。


労働組合つぶしの企みが進んでいる
「労働基準関係法制研究会」報告書の危険な内容

 厚生労働省は1月8日、「労働基準関係法制研究会」報告書を公表しました。これは労働基準法等の見直しについて具体的な検討を行うことを目的としてきたもので、読めば読むほど危険な内容が見えてきます。

 特に問題なのは「労使コミュニケーションの在り方について」の項目で、「過半数労働組合による労使コミュニケーションが望ましい」としつつ、「組織率が16.3%にとどまり、長期的にも低下しており、過半数労働組合がない事業場が多い実情」があるので、「これまでの過半数代表者だけでなく、複数の人を選任する過半数代表制も考えられる」としています。

 さらに任期についても「これまでの過半数代表者は手続き毎にその都度選出するのが基本だが、任期を定めて選出する選択肢もある」としています。つまり、労働組合がなくても、複数の過半数代表者が任期内であれば、会社と交渉して、労働条件を決められるようにしようとしているのです。大変危険です。


本多書記長の労働相談日記

Dさん(インド人男性・50歳)

労災で休業中なのに ビザの更新が出来ない!?
1か月の出国準備のビザに変えられてしまった

 Dさんは、「労災で休業中なのに、在留資格の更新が不許可になり、1か月(24年12月13日まで)の特定活動・出国準備のビザになってしまいました。東京入管宇都宮出張所は、一度帰って怪我が治ったらまた来てくださいと言っているが、まだ治っていないのだから帰りたくない」と相談に来ました。

 仕事はインドレストランのコックで、オーナーの車で食材の買い出しに行ったとき、オーナーが交通事故を起こし、Dさんは肋骨16本骨折という大怪我を負い、ドクターヘリで病院に運ばれ手術を受けました。幸い手術は成功しましたが、まだ痛みも強く、働くことなどできる状態ではありません。

 組合はこれまでにも、労災で休業中にビザの更新時期が来た人のケースを支援したことがありますが、問題なくそれまでと同資格(Dさんの場合は技能)で更新されてきました。どう考えてもおかしな話です。

 組合は、不許可は不当であると判断し、東京入管宇都宮出張所へ行き、不許可理由を問いただしました。その結果、「怪我はしているが、仕事が出来ないほどではないのに、3か月以上仕事をしていないと入管が判断したので、在留資格の更新は不許可にした」という理由であることがわかりました。

 たしかに「3か月以上在留資格の仕事をしていない」ことが、更新しない理由として入管法に規定されています。この規定も認めることはできませんが、百歩ゆずったとしてもこれは健康な人の話です。労災で休業中の労働者が働いていないのはあたりまえではありませんか。なにを考えているのか理解に苦しみます。

 組合は、共産党本村伸子議員に協力をお願いし、本村伸子議員とともに法務省入国管理庁本庁と話し合いを持ちました。とにかく12月13日の前に、再申請しなければなりません。時間はせまっていました。12月12日、必要書類をそろえ、本人と本多書記長が東京入管に行き、無事申請を終えました。現在結果待ちです。


4年ぶりの懇親会で決意固め合う
LUM第24回定期大会を開催

 LUMの第24回定期大会が24年11月23日、東京都内で開催されました。大会後にはコロナ禍で控えてきた懇親会を4年ぶりに開き、各国の外国人労働者も交えて楽しいひとときを過ごしました。

 あいさつした松澤委員長は、「海外からの労働者の増加に、日本政府は対応できていない。この間の成果を、これからの運動の布石にしていきたい」と決意をのべました。来賓として全労連から竹下事務局次長、東京地評から矢吹議長が出席、1年間の共同した運動を振り返りつつ、連帯と激励の言葉がおくられました。

 本多書記長が運動方針を提案。持ち込まれる相談内容が多様化するなか、「今後も解決にむけて一歩でも二歩でも前進させたい」と抱負をのべました。また、「パレスチナ支援ストラップ」の取り組みでは、新聞にも掲載されるなかで、全国各地から送付の申し込みが次々と届いていることが紹介されました。

24回総会 運動方針は満場一致で採択され、新たな決意のもとで奮闘を誓い合いました。閉会後には、労働相談などでつながりができた外国人や支援者も加わり、盛大な懇親会が催されました。難民申請中のコンゴの仲間も元気な姿を見せ、日本語学校に通うなどの近況も語られました。

 その他にも、クルドやネパールをはじめ、さまざまな地域から来日した人々と交流を深め、和気あいあいのなか運動のひろがりを実感できる場となりました。

2025年度役員
執行委員長  松澤 秀延
副執行委員長 (今後選出予定)
書記長    本多 ミヨ子
会計     (書記長兼任)
幹事     海野  博
       大熊  博
       黒田 健司
       田波 紀夫
       山口 文昭
会計監事   色部  祐
       久保 桂子
○協力幹事
 梶 哲弘(全国一般東京地本合同労組委員長)
 柴田 和啓(元東京地評)
 森 治美(全国一般東京地本委員長)


フィリピンから2名の女性活動家が来日
労働運動の貴重な経験を学ぶ

 LUMの賛助会員でもある和光大学客員研究員の佐伯芳子さんが、研究の一環として、フィリピンからSENTRO(フィリピン進歩労働同盟、フィリピンのナショナルセンターのひとつ・以下セントロ)の女性活動家を招き、移住女性に関する国際研究会を開催しました。7年前に本多書記長がセントロを訪問したこともあり、LUMも協力しました。以下アドリアーナさんの報告です。

■フィリピンの移住女性は100万人以上

 フィリピン人女性労働者について2024年6月に政府が行った調査では、大学卒・大学院卒で高学歴であっても、学歴以下レベルの仕事にしか着けない、半失業状態が目立ちます。失業率が65.7%。また、男性は生産的な仕事をしている率が高いのに、女性は、家事労働、ケア労働などの労働を強いられている調査結果があります。2024年3月調査では、海外で働いているフィリピン移住労働者の100万人以上が女性、72万6千人が男性です。女性フィリピン移住労働者の多くが、中東地域で、家事労働者として働いていることが報告されています。

労働組合は世界的に3つの役割を担っている

 1つ目は、経済の再分配。2つ目は、権力との闘い。3つ目は、文化的変化を勝ち取っていく役割。
 労働運動は、先進的アイデアを広めていくため、権力者には脅威ですが、残念ながら現在のフィリピンの労働組合は、ナショナルセンターの合計でも組織率は6%です。

 セントロのソーシャルムーブメント・ユニオニズム(社会運動組合主義)という戦略は、職場だけではなく、選挙や議会、民間企業やNGOのイデオロギーに関わるあらゆる場所で闘いを進めていく戦略です。インフォーマル・セクター(登録していない事業活動)、一般雇用の場所、コミュニティ・地域社会・女性などの様々な分野で労働者のための場所があれば、どこででも闘いの場所を作ります。

 セントロの女性の闘いの一例ですが、セクシャル・ハラスメントや女性に対するハラスメント、ジェンダーに基づくハラスメントを一掃することを要求し、他のナショナル・センターと協力して、15項目に及ぶ、労働政策、労働組合が達成すべき就労分野での項目を作成しました。労働者の権利の確保だけでなく、南シナ海での平和を達成も含まれています。

■多国籍組合を立ち上げ

 2022年12月、多国籍の家事労働者・ケア労働者の組合「ピナイ」を立ち上げました。フィリピンの労働者・移住労働者をフィリピンだけでなく、香港、マカオ、マレーシア、台湾、クウェート、バーレーン、ヨルダンの8か国で組織している労働組合の連合体です。フィリピンから移住してケア労働・家事労働をしている女性たちの組織です。

 17年かけて、香港でフィリピン労働者がつくっているグループ、労働組合だけではなく、文化的グループ、スポーツのグループなどとコンタクトを取って組織活動しました。私たちの組合員はほぼ全員が女性で、香港でのフィリピンの女性労働者はほぼ全てが家事労働に従事している人たちです。

 香港で組織活動をした後に、マレーシアのクアラルンプールでも組織化をしました。その後マカオでも組織化をはかり、組合としてマカオの政府に登録をしました。フィリピンから海外に行った家事労働者は、送り出し国と受け入れ国との協定もないなかで、さまざまな問題にさらされています。

 私も35年間、香港で家事労働者として働き、その後、組合を作って代表になりました。組合では、海外に移住している家事労働者に対して、教育・トレーニングプログラムを提供して、女性たちをエンパワーメント(力をつける)しています。そしてその中で、指導者の育成をしています。目指すは、団体交渉を行って、権利を勝ち取っていくことですが、移住家事労働者の場合は、なかなか難しい状況にあります。

■受入れ国での活動を政府に認識させた

 わたしたちは、政治・議会、組織化、ジェンダー、労働者の権利、労働組合、経済的問題、財政・行政についての情報・問題を共有し、一人一人の力をつける教育トレーニングをしています。

 フィリピン国内でも、受け入れ先での権利向上のために、フィリピン政府に働きかけています。政府と話をして、私たちの運動・闘い・キャンペーンを認識してもらいました。受け入れ国での私たちの組織化を、政府から認識してもらったことは大きな前進です。

 ピナイが、今一番力を入れているのは社会的保障です。各国で労働者が健康保険を取得できることを求めています。組合は各国にまたがっていますが、フィリピンでは、私たち二人だけがピナイの活動をしています。

■さらに多くの国で組織化したい

 私たちは、送り出し国としてフィリピン政府に海外での移住労働者の権利や状況を伝えるロビー活動をしています。フィリピンで移住労働者省にかけあって、定期的に会合を持っています。

 受け入れ国で組織化の活動をしている労働組合員たちは、週に1回しか休みがないので、そこで、すべての組合活動をしなければならないので、非常に大変です。困難はたくさんあるのですが、同時に非常に励まされます。初の国を超えた多国籍のフィリピン人のための家事労働者の組合だということで、非常に注目を集めています。わたしたちは、さらに多くの国で組織化したいと思っています。


厚労省が外国人雇用実態調査を初めて公表

 厚生労働省では、「令和5年外国人雇用実態調査」の結果を取りまとめ、24年12月に公表しました。

 厚労省が初めて実施した調査ですが、日本で働く約160万人の外国人のうち、抽出して調査したのは11,600人余に過ぎず、これで実態を反映しているのか疑問です。

 また、抽出された9450事業所のうち、有効回答数は3434事業所にとどまっています。回答しなかった事業所にこそ、外国人労働者をめぐる問題が隠れているのではないかと思えてなりません。

【調査結果の主なポイント】

<事業所調査>
外国人労働者数(雇用保険被保険者数5人以上事業所)は約 160 万人。在留資格別にみると「専門的・技術的分野」が 35.6%、「身分に基づくもの」が30.9%、「技能実習」が22.8%となっている。

<きまって支給する現金給与額、実労働時間>
【在留資格別】・専門的・技術的分野 285.9千円〔158.6 時間〕
 ・うち特定技能 232.6 千円〔159.9時間〕
 ・技能実習 204.1千円〔163.2時間〕
 ・身分に基づくもの 302.3千円〔149.5時間〕

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