ILO条約勧告適用専門家委員会報告(第108回総会)

 

第108回ILO総会提出CEACR報告(29号条約・強制労働)日本案件(抜粋)

 委員会は、2016年10月24日、および2017年9月26日に受領した首都圏移住労働者ユニオン(LUM)の所見に留意する。また委員会は2016年9月1日、および2018年9月8日の韓国労総(FKTU)、および民主労総(KCTU)の共同所見、ならびに2018年11月7日の政府の回答に留意する。さらに委員会は、政府報告のなかの連合(JTUC-RENGO)の所見に留意する。最後に委員会は、2018年11月23日に受領した全日本造船労働組合関東地協(All Japan Shipbuilding Trade Union-Kanto Region)の所見に留意する。

●条約第1条(1)、第2条(1)、第25条(移住労働者の強制労働)

 委員会は、その前回のコメントにおいて、技能実習制度のなかで強制労働にも等しい労働権侵害が起きていることに留意した。日本国際研修協力機構(JITCO)が監視する同制度は、開発途上国の人的および産業資源を開発し、産業技術、技能、知識の移転を確保するために設立され、同機構のもとで外国人は「研修生」として1年間の日本入国と「技能実習生」としてさらに2年間の在留が可能になる。

 同制度は2010年7月、とりわけ「技能実習」のために最長3年間、住居を付与することによって、また労働法令による保護によって、研修生と技能実習生に対する保護の強化を目的に改正された。さらに送り出し機関と受け入れ機関には保証金や違約金の徴収が禁じられ、人権侵害が認められた組織に適用する制裁措置が強化された。

 しかし連合の指摘によると、帰国した研修生の15.9%が雇い入れ機関に保証金を要求されたと報告している。首都圏移住労働者ユニオンの指摘によると、2010年に導入された改正にもかかわらず、送り出し機関は研修生の借金の原因となる事前研修費、あるいは交通運賃に見せかけた支払いを徴収し続け、とりわけ雇用主の変更が許可されていない研修生を解雇や退去に対して脆弱にした。また首都圏移住労働者ユニオンは、若く健康な人としては外国人研修生の死亡者数が異常に多いと述べた。

 さらに総務省行政評価局(AEB)が行った調査によると、調査した846事業所のうち157事業所において職員の半数を研修生が占め、また34事業所は研修生のみを雇用していた。政府はその回答のなかで、法務省入国管理局が研修生を受け入れている事業所の監視に積極的にとりくんでいることを指摘した。報告された違反はすべて事業所に公表し、必要であれば、新たな研修生の受け入れは5年間停止される可能性がある。深刻な違反が疑われた場合、入国管理局は労働基準監督署と協力し、極めて深刻な違反を検察庁に送検した。

 2013年、監査が実施され、2,318事業所が指導された。1844件の労働法違反と12件の深刻な違反が検察庁に報告された。また政府の指摘によると、厚生労働省は日本国際研修協力機構に対する訪問指導を行い、一部の違反については労働基準監督署に報告するよう指示した。さらに2015年3月、技能実習と技能実習生の保護に関する法案が国会に提出された。こうした情報に留意しつつ、委員会は、引き続き政府が対策を講じて、外国人技能実習生の保護を強化するよう求める。

 委員会は連合の所見に留意する。同所見は、労働基準監督署が行った監査結果によれば、2016年と2017年、技能実習制度実施機関の70%において労働法違反があったことを指摘する。さらに2016年11月に成立した「外国人の技能実習の適正な実施および技能実習生の保護に関する法律」(以下「技能実習法」)第14条により、監理団体に対する実地監査は年1回、実習実施機関に対する実地監査は3年に1回しか行われない。また連合は、個々の苦情や相談窓口が電話やEメールに限定されていること、また使用言語によっては電話相談の日時が決められており、緊急な保護が求められる切迫したケースに対応していないことを指摘する。連合は、保護シェルターといったワンストップサービスを母国語で設置することが必要だと考えている。

 首都圏移住労働者ユニオンはその見解のなかで、法改正が新たな問題を生み出しつつ、いくつかの問題を解決したと考えている。「技能実習法」とその実施に関する政省令は、制度を大幅に拡大し、低賃金かつ自由に仕事を辞める権利のないかなりの数の若年労働者の供給を可能にしている。所管官庁により優良と認められた事業者には、制度の利用が3年から5年に延長される可能性もある。

 しかし優良事業者を決定する基準は、残業の制限といった根本的な問題に対処していない。さらにこの新たな枠組みによって、団体または企業が受け入れることのできる実習生の最大数は大幅に増加し、実習生にほんとうの実習を提供する受け入れ機関の能力は損なわれている。

 さらに同新法は、強制労働の危険を増加させる最も基本的な要因である強制送還と使用者の変更の禁止に対処するものではない。また首都圏移住労働者ユニオンの指摘によると、新法に基づく制度の実施を監督、監視する外国人技能実習機構(OTIT)は、約2,000の管理団体、約35,000の実施企業、約23万人の技能実習生に対応するものの、その職員はわずか330人である。

 首都圏移住労働者ユニオンは、労働基準監督署が多くの違反を認めたものの、検察庁に送検された違反はそのうちの約1パーセントにすぎないことをあらためて指摘している。違反と認められたものには、長時間労働(月最長130時間の残業)、賃金不払い、あるいは過少払い、労働安全衛生関連の違反などがある。

 さらに入国管理局の統計によると、2016年、実習生が被害者になっている労働権侵害は380件であり、そのうち121件は賃金の支払いに関連するもの、また94件は身分証明書の偽造あるいは書き換えに関連するものである。また51件は受け入れ組織(あるいは受け入れを代行する組織)による「名義貸し」である。とりわけ近年、「名義貸し」が著しく増加している。

 首都圏移住者ユニオンは、実習生のなかに労働災害や死亡災害が増加していると指摘する。2015年、脳性疾患または心疾患による死亡者8人と自殺による死亡者2人を含む実習生30人が死亡している。 2016年8月、岐阜県の労働基準監督署は、27歳のフィリピン人実習生の死亡を極度の長時間労働がもたらした過労による労働災害と認定した。

 委員会は、技能実習法が実習生に対する人権侵害の禁止を定め、また特定の種類の違反に対する罰則を定めているとする政府報告のなかの情報に留意する。同法第49条によると、実習生は、監理団体あるいは実施企業による法律違反を主務大臣(法務大臣および厚生労働大臣)に申告できる。外国人技能実習機構は、ベトナム語や中国語といった多言語の電話やEメールにより、実習生からの苦情に対応している。

 また政府の指摘によると、外国人技能実習機構は2017年11月に運用を開始した。2018年5月31日現在、外国人技能実習機構が実施した検査に関する統計情報はまだ入手できていない。 2016年、労働基準監督署は実習実施先5,672か所で調査を実施、指導を行った。実習生に対する深刻な違反40件が検察庁に送検された。しかし実習生が被害者になっている刑事事件に関する統計情報はない。さらに政府はバングラデシュ、カンボジア、インド、ラオス、モンゴル、ミャンマー、フィリピン、スリランカ、ベトナムといった9カ国と連携の覚え書きに署名した。

 技能実習制度の実施と政府の措置には十分留意するものの、影響を受ける実習生の数が多いこと、最長5年という長い実習期間によって実習生の脆弱性がいっそう深刻になること、実習先の変更が禁止されていることなどを考慮すると、委員会は新たな法的枠組みによる監督と保護措置が不十分だと考える。委員会は賃金の遅配、長時間労働、身分証の偽造、あるいは受け入れの代行といった強制労働にも等しい労働権侵害と技能実習生に対する虐待的な労働条件が引き続いていることを懸念しつつ、留意する。

 したがって委員会は、受け入れ先に対する効果的な調査活動、実習生がさらされている虐待の状況を申告するために利用できる窓口の設置、および、こうした状況への迅速な対応と措置をとおして、強制労働にも等しい虐待的な慣行や労働条件から外国人技能実習生が完全に保護されることを確保するため、必要な措置を講じるよう政府に強く要請する。
 また委員会は、技能実習法とその実施規則の実際の適用に関して、報告があった違反件数とその性質、起訴件数、有罪件数、有罪判決につながった証拠といった情報を提供するよう政府に求める。

(以上、全労連国際局訳)

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