LUM No.75 (19.4.5)

強制労働に等しい虐待的慣行や労働条件から
実習生を保護するよう日本政府に強く要請

~ILO条約勧告適用専門家委員会(CEACR)が報告~

 ILO(国際労働機関、本部・ジュネーブ)の条約勧告適用専門家委員会(以下、委員会)は、今年6月に開かれる108回ILO定期総会にむけて報告を取りまとめました。そのなかで、強制労働(29号条約)にかかわって日本の外国人技能実習制度が取り上げられ、日本政府に対して、技能実習生の「完全な保護」を確保するための必要な措置を強く要請しました。(報告の詳細はこちらを参照)

「強制労働に等しい」と日本政府を強く非難

 LUMは2010年から毎年、ILO事務局長あてに「技能実習制度は、強制労働を禁止したILO第29号条約に違反している」として、申立書を繰り返し提出してきました。これを受けたILOは、いままで2回にわたって報告を出してきましたが、これほど強い調子の報告は初めてです。

 委員会はこれまでも、「首都圏移住労働者ユニオンからの情報提供に留意する」とし、日本政府に対して「法令違反の数および有罪になった事例数などについて報告すること」などを求めてきました。今回の報告は、これまでのものとは明らかに語調が変化し、より厳しい内容となっています。

 委員会報告は、「2016年10月24日、および2017年9月26日に受領した首都圏移住労働者ユニオンの所見に留意する」として、技能実習制度にかかわって「強制労働にも等しい労働権侵害と技能実習生に対する虐待的な労働条件が引き続いている」ことを懸念しています。「強制労働」という言葉が使われたのは初めてです。

 さらに、技能実習制度が2010年7月に改正されたにもかかわらず、「送り出し機関は借金の支払いを徴収し続け、とりわけ雇用主の変更が許可されていない研修生を解雇や退去に対して脆弱にした」と、LUMの指摘をそのまま受け止めています。

「監督と保護措置が不十分」と断定

 申立書では、2017年の法改正が新たな問題を生み出し、低賃金かつ自由に仕事をやめる権利のない、かなりの数の若年労働者の供給を可能にしてきたこと、実習生のなかに労働災害や死亡災害が増加していることなどを指摘してきました。

 委員会報告は、「技能実習制度の実施と政府の措置には十分留意する」としながら、最長5年という長い実習期間は、「実習生の脆弱性がいっそう深刻になること、実習先の変更が禁止されていること」などをふまえ、政府による「監督と保護措置が不十分」と断じています。

 そして委員会は、「強制労働にも等しい虐待的な慣行や労働条件から外国人技能実習生が完全に保護されるため必要な措置を講じるよう政府に強く要請する」と、具体的な対応を日本政府にきびしくせまっています。

国際的な批判をうけて技能実習制度は廃止せよ

 技能実習制度は、ILOがめざしている「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」とは対極にあり、国際的にも批判が高まっています。技能実習制度は、ただちに廃止すべきです。
 昨年末に出入国管理法の改悪が強行されるもと、今年6月に開かれるILO総会での議論が大いに注目されます。

※ 条約勧告適用専門家委員会報告の全文は、英文でILOのホームページに掲載されています。 


ベトナム語の位牌が並ぶ寺、日新窟を訪ねて

日新窟 今年3月8日、東京都港区芝公園にある日新窟(にっしんくつ)を訪ねました。昨年10月14日の朝日新聞に掲載された「ベトナム実習生ら、相次ぐ死」の記事を読んだ時から、どうしても話を聞きたいと思っていたお寺でした。「いのちと健康を守る東京センター」の色部祐さんからお誘いを受け、喜んで同行させていただきました。

 浄土宗・増上寺の塔頭の1つある日新窟に「在日ベトナム仏教信者会」が設立されたのは2014年。以来、日本で暮らすベトナム人の精神的支柱となり、また不幸にして日本で亡くなった方の菩提を弔うお寺となったのでした。尼僧で会長のティック・タム・チーさんと、事務局長の吉水里枝さんに話を聞かせていただきました。

 ティック・タム・チーさんは「若い人がたくさん亡くなっています。実習生や留学生が多いです。病気の人も事故の人もいますが自殺する人もいます。心が痛いです」と語ってくれました。

実習生の死亡問題で協力を約束

 そして、「通勤災害なのに労災として扱われない例もあります」と、昨年3月に通勤のために会社の日本人が運転する車に乗っていて朝7時頃事故にあって亡くなった実習生の遺族が、1年経っても補償金を受け取っていない例をあげ、吉水さんも「ベトナム人は日本の法律のことを知らないので、何もしない会社もあります」と、いきどおりました。

 私たちは「なんとしても実習生の過労死をなくしたいと思っています。可視化して歯止めをかけなければ、今後増えるおそれがあります。この事例でもぜひ協力させてほしい」と要望し、今後の協力体制を約束しました。(本多記)


希望者全員に在留許可を!

人道上当然認められるべきなのに
あまりにも人権感覚ない日本政府

 1月26日付共同通信が「在留特別許可が2014年~2017年までの6年間で5分の1に激減した」と配信しました。ひどい話です。LUMに相談に来た人たちの中にも、日本人と結婚したのになかなか在留特別許可が出ず、最後には強制退去させられてしまった人がいましたが、本当に気の毒でした。

 昨年、みなさんの協力で仮放免を勝ち取ったクルド人のアテシ・スアットさん、ウチャル・メメットさん、ふたりとも妻は日本人です。在留特別許可が出て当然なのに、政府が許可しないために苦しい思いをさせられているのです。

 政府は「許可数が減ったのは、在留特別許可を希望し、そのための手続きをする人が減ったため」などと説明していますが、とんでもない言いのがれです。まず希望する人をすべて認めてから言うべきことです。

 特に、子どもたちにただちに在留特別許可を認めるべきです。日本で生まれ育った子どもたち、年少のころ日本に来て日本の生活になじみ友達もできた子どもたち、大学に通う年齢になった子どもたち、かけがえのない子どもたちの未来を奪うことは許されません。

「在留特別許可」とは・・・
 入管法24条で規定されている退去強制事由に該当する人のうち、法務大臣の自由裁量によって与えられる在留許可です。法務大臣から在留特別許可を受けることにより非正規在留が合法化され、正規滞在になります。


東京入管が救急車を追い返す

仮放免を求める署名にご協力を

 品川区にある東京入国管理局でこの3月、またまたひどいことが起こりました。病気の夫を心配した妻と親族が呼んだ救急車を、入管局が追い返したというのです。

すでに収容14か月、面会時に「助けて」

 難民申請が認められなったクルド人のメメット・チョラクさんは、2018年1月から東京入管に強制収容され、すでに14か月が経過しました。妻と3人の子どもたちは親族の助けで生活しており、妻はたびたび面会に行っていましたが、面会のたびにメメットさんは体調不良を訴え、妻は心配していました。

 3月12日の朝9時頃、面会に行った妻は受付で「病気なので面会はできません」と断られたので、驚いて総務課に行って「病院に連れていって治療してほしい」と頼みました。午後になって面会は許されましたが、面会室に現れた夫は一人で歩くことができず、職員に支えられやっと歩いてきました。そして頭痛、心臓の痛み、手足のしびれなどを訴え、「助けて!」と叫んだのです。心配でたまらない妻は再び総務課へ行きそのことを訴えましたが、職員が「医者にも見せたし、薬も飲ませた」と言ったので、妻はとりあえず自宅に引き返しました。

支援者100人が入管前に集結し抗議行動

 ところが最寄り駅についた時、メメットさんから電話が入り再び「苦しい、助けて」と訴えたのです。急いで入管に引き返し、親族や日本人支援者に連絡すると、支援者たちがSNSを使って拡散、メメットさんの面会、治療を求めて、100人近くが入管前に集まってくれました。

 入管に対して抗議が行われる中、メメットさんの親族の1人が19時頃、救急車を呼びました。駆けつけた救急隊は入管の建物内に入りましたが、40分ほどで出てきて帰ってしまいました。

 電話で確認すると「看護師から病院へ行くほどではないと言われ追い返された。本人と会うこともできなかった」と言っていました。支援者は抗議を続け、22時10分頃再び救急車を呼びましたが、入管側はかたくなに拒否しました。
 メメットさんは今も収容されたままです。松澤さんが面会した時は車椅子で面会室にきたそうです。早く仮放免を勝ち取り、外の病院で治療が受けられるように、引き続き東京入管への行動を強めていきます。


最近の労働相談より

その1 小さなタトゥーを理由に突然解雇された

 留学期間が終わり、東京に本社のあるブライダル会社に無事就職したMさんは台湾の女性。東京で働けるとばかり思っていたのに、配属先は名古屋の支店で、Mさんは引っ越しを余儀なくされ、名古屋に住まいを借りました。

 ところが試用期間の3か月が過ぎようとしていた昨年6月末、突然解雇されました。告げられた解雇理由は、首の後ろ側にあるほんの小さなものでした。しかし、タトゥーと言っても図柄はハートと1文字だけで、Mさんは「ちゃんと意味があるものだし、別に悪いことではない」と、面接時もあえて隠そうとはせず、面接担当者も気づかないほどのものでした。

 美大卒を生かして、会社では主にデザイン関係の仕事をしていました。入社してからほどなく上司の女性がMさんのタトゥーに気づいたときにも、「仕事中だけシールを貼ればいい」と言われ、そのアドバイスに従って支障なく仕事をしていました。

 それなのに、突然解雇を言い渡された時は納得できませんでしたが、仕方がないとあきらめて会社を辞め、Mさんは仕事のために転居した名古屋のアパートを引き払い、東京に戻らざるをえませんでした。

 LUMに相談してきたMさんの望みは、引っ越し費用を会社に負担してもらいたいということでした。採用から解雇までのいきさつを聞いて、そもそも小さなタトゥーを理由にした解雇そのものが明らかに不当であると判断しました。
 Mさんはすでに他の職場で働いていることから、解雇の撤回よりも、引っ越し費用はもとより、失業していた期間の賃金の支払いをふくめて、会社に必要な対応を求めていきます。

その2 入管には「月20万円」と申告、実際には出来高払い

 Sさんも台湾の女性です。3年前に日本の大学を出て、留学ビザから「技術・人文知識・国際業務」のビザに変更し、在日台湾人を対象にした新聞社を見つけて、記者として東京で働きはじめました。

 Sさんは、その時に新聞社に採用されたとばかり思っていたのですが、賃金は記事の執筆や取材ごとの出来高払いでした。しかも単価が安く、仕事もコンスタントではなく、受け取った報酬は多い月でも10万円に満たず、少ない月はわずか2万5千円ほどでした。

 この新聞社に勤めることを前提に、在留資格が認められたことからも、アルバイトをふくめて他の会社で仕事をすることはできません。これでは日本での生活はつづけられないので、Sさんは留学前に台湾で働いて少しずつ貯めた預金を取り崩しながら、社長には正社員待遇にするようにずっと求めてきました。

 しかし社長は、「会社が赤字だ」などと言って認めようとせず、さらに今年1月からはSさんに仕事を与えない態度にでてきました。ついにガマンの限界に達したSさんは、ホームページからLUMに相談してきたのでした。
 相談をうけて、LUMは、さっそく新聞社の社長にあてて要求書を提出し、今後、正当な賃金の支払いを求めていきます。


外国人労働者問題 掲載紙の紹介

 18年秋の臨時国会での出入国管理法の改定を契機に、外国人労働者問題に関心を持つ人が急激に増えました。とてもいいことです。いろいろな書籍でこの問題の特集が組まれていますが、その中の2冊を紹介します。ぜひお読みください。

 雑誌「経済」3月号(新日本出版社・1030円)は、座談会「外国人労働者問題―受入れ拡大の問題点と課題」を掲載しています。
 出席者は大坂恭子(弁護士)、榑松(くれまつ)佐一(愛労連議長)、坂本恵(福島大学教授)、仁比聡平(日本共産党参議院議員)の4氏で、技能実習生の実態と19年4月から受け入れが始まる「特定技能」の問題点、入管法の改定の国会審議の中で明らかになったこと、野党共闘の次の課題などが縦横に語られています。

 関連してLUMの本多書記長が、「研修・技能実習制度の変遷と問題点」と題して寄稿しています。研修・技能実習制度の来し方を検証すると、団体監理型が導入された1990年からすでに“技術移転”という建前は崩壊していた、この制度は初めから安価な労働者を雇い入れる制度だったのであり、廃止以外ないと鋭く指摘しています。

 「労働総研クオータリー」春季号(本の泉社・1200円)は、「外国人労働者問題」を特集しています。1冊まるごと外国人労働者問題です。
 藤田実氏の「日本経済の今日的構造と外国人労働者導入のねらい」、伍賀一道氏の「外国人労働者の受入れ拡大と『労働力不足論』」、岡田則夫氏の「ILO『移住労働者に関する国際的労働基準』およびILO報告」、大坂恭子氏の「改定出入国管理法の問題点」、など総合的見地から外国人労働者問題を取り上げています。

 本多書記長も「技能実習制度はなぜ奴隷的労働と言われるのか」と題し、借金はどのように発生するのか、平均月収3万円の国で100万円の借金をしてまで日本に来るのはなぜか、そのお金はどのように工面するのか、雇用主変更の自由がないとどういうことが起きるのかなど、制度の本質についてわかりやすく解説しています。

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