2023年
「新しい戦前」になんて絶対させない!
国際基準に沿った人権機関を設立させ
平和と人権 守り抜く年に!
「新しい戦前」という言葉がツイッターでトレンド入りしたそうです。大軍拡を国民に図ることなく推し進めている今の政府の動きを見ていると、現状をズバリ言い表していると感じます。戦後曲がりなりにも保たれてきた「平和」が崩されようとしています。
「労働組合だから労働問題だけに取り組んでいればいい」と言うわけにはいきません。LUMの合言葉は「国籍は違っても働く人はみんな仲間」です。その前提は「平和」と「人権」です。平和があってこそ人権は守られます。移住労働者の生活と権利を守る活動を進めながら、危機に瀕している「平和」「人権」を守る運動を進めましょう。今年も元気に楽しく力を合わせて。
ねばり強いとりくみで全面解決に
時給はほぼ元通りにして復職を勝ち取る
前号でお伝えしたフィリピン人女性Mさんの事案が解決しました。ホテルのベッドメイキングと室内掃除で働いてきたMさんは、腰痛を発症して休業を余儀なくされるもと、交渉を積み重ねた結果、復職を勝ち取りました(経過については前号参照)。
ところが、会社が時給を引き下げてきたことから、その後もねばり強く交渉を積み重ね、時給を250円引き上げるとの回答を引き出しました。
腰痛は、「ホテル業界の職業病のようなものでよくあること」などと言われ、Mさんの会社も腰痛を「自己都合」としてきました。これまで団体交渉等を通じて、Mさんの負担軽減も繰り返し求めてきたところです。
一方、Mさんが職場を休んだ期間の賃金を補償するため、健康保険組合に傷病手当金を申請しましたが、健保組合は昨年6月、「傷病の療養をするため仕事に就くことが出来ない状態にあったとは認められない」などとして、傷病手当金の不支給を決定しました。
この決定は、Mさん本人に話も聞かず、「医学的にどうこうというわけではない」などという主治医の意見を鵜呑みにしたもので、とうてい認められません。組合ではMさんと相談して、昨年9月に関東信越厚生局に審査請求をしました。その結果、Mさんの訴え通りに請求が認められ、傷病手当金が支給されることになりました。
会社は「まだ仕事をするのは無理」として復職させず、Mさんは収入の道が断たれ、極度に困窮した生活が続いていたなかで、健康保険組合が本人に会って話を聞けば、不支給決定にはならなかったはずです。関東信越厚生局の手当金支給の決定は当然と言えます。
ほぼ全面解決したもとで、Mさんは「とてもうれしい。組合のおかげです」と喜んでいます。これからも、Mさんのみならず、他の労働者も腰痛にならないよう、労働環境改善に取り組んでいきます。
不当逮捕されたエジプト人男性
LUMの全面的支援で不起訴に
エジプト人男性Hさんが相談に来たのは昨年7月26日でした。相談内容は「上司から『職場の同僚に怪我をさせたから、当分自宅待機をするように』と言われたが、怪我などさせていないし、わけがわからない。自宅待機は2週間になるが、その間一度も事情を聞かれていない。どうしたらいいか」というものでした。
Hさんは、大規模高齢者介護施設の介護職員として勤務していました。ある日、休憩室で休憩をとっていると、同じ休憩室にいたWさん(フィリピン出身・女性)が、突然「足が痛い」と叫びだし、事務室に行って「Hさんに足を蹴られた」と言ったらしく、職場の上司から「あなた、Wさんを足で蹴りましたね。今、本人から訴えがありました」と告げられ、自宅待機を命じられたのです。
組合はすぐに対応し、会社に対して「事実経過」「自宅待機の理由」を問い合わせる要求書を提出し、返事を待っていました。ところが「話を聞きたいから会社に来るように」と言われたHさんが会社に行くと、そこで待っていたのは警察だったのです。
Wさんが被害届を出したため、Hさんは何もしていないのに逮捕され、警察署に拘留されてしまったのです。Hさんの友人からの知らせで逮捕を知った組合は、すぐ会社に問い合わせ、「会社が知らせなければ警察が待っていることなどあり得ない」と厳重に抗議し、Hさんの支援を開始しました。面会、差し入れ、自宅ポストの中味の整理、駅においてあったバイクの移動等を組合役員が手分けして支援しました。
一方、警察の取り調べは執拗で、机の上にCDやDVDを積み上げ、「いくら否定してもここに証拠が入っている」と脅してきます。Hさんは「何もやっていないのだからそんなものあるわけがない。今ここで、見せてくれ」と一歩も引かず、全否定のまま釈放されました。
21日間の拘留の後不起訴となり、何もしていないことが確定したため、Hさんは同じ系列の介護施設に職場復帰をして現在も働いています。Wさんがなぜありもしないことを申し立てたのかは不明ですが、何より警察が無実の人を21日間も拘留させたことは明らかに人権侵害です。組合は事実を明らかにするために、今後も取り組んでいきます。
仮放免を取り消されイタリア人男性が壮絶な死
入管施設内で電気コードを使って感電自殺
昨年の11月に収容施設で自殺したイタリア人男性について、出入国在留管理庁は12月16日、「自殺をうかがわせるような言動は見当たらなかった」と発表しました。
前号でも報じたように、2007年以降に収容所で6人が自殺(ハンガーストライキの餓死を含める)しているなかで、男性も先が見えないなかでみずからの命を絶ったことは明らかです。その苦しみを汲み取れなかった入管局の責任こそ問われます。
施設収容は「精神的に悪影響」と大臣も認める
50代のイタリア人男性は、仮放免を取り消されて昨年10月25日から東京入管の施設に強制収容されていました。それから約3週間後の11月18日朝、男性が室内で倒れているのを収容所職員が発見、病院に救急搬送された2時間後に死亡が確認されました。
東京入管によれば、男性はテレビから引き抜いた電源コードを使い、頭部に電流を通して感電死していました。その壮絶な手段からも、将来を悲観したのか、あるいは、強制収容という不当な扱いに抗議の意を示したのかもしれません。
いずれにせよ、自殺を選んだ男性が、収容所の一室で精神的に追い込まれていたのは想像に難くありません。入管庁も当初、「大変重く受け止めている。事実関係を確認し、必要な対応を検討したい」と表明、国会でも日本共産党の仁比聡平議員の追及に、斎藤法相(当時)が「入管施設に収容されることが精神状態に悪影響を及ぼすと考えている」と認めていました。
仮放免の外国人を支援するNPO団体によれば、支援する仮放免者の8割程度が精神的な問題を抱えていると言います。にもかかわらず、医師・職員らへの通り一遍の聞き取り調査で、入管側の落ち度は確認されなかったとし、その上で「自殺を伺わせる言動はなかった」などと言う厚顔無恥な態度は許せません。
死を無駄にせず入管制度の抜本的な改善を
昨年9月には収容中に死亡したカメルーン男性の損害賠償請求を裁判所が認め、スリランカ女性ウィシュマ・サンダマリさんの死亡事件をめぐっては、殺人容疑などで告訴・告発された名古屋入管局長をはじめ職員13人は、一度は不起訴となったものの、検察審査会は昨年暮に「不起訴不当」と議決しています。こうした状況は、入管施設をはじめ日本の入管制度自体に構造的な問題があるからにほかなりません。
今通常国会では、21年の国会で廃案となった出入国管理法案の再提出を岸田内閣がねらっているもとで、政府に対して抜本的な制度改善を求める声を高めていきましょう。
(特別寄稿)健康に生きる権利は基本的人権
九州社会医学研究所 田村昭彦(医師)
2022年11月18日、東京出入国在留管理局に「収容」されていた50代のイタリア人男性が自殺したことが明らかとなった。2007年以降6人目の被害者である。この痛ましい事件はあってはならない事であり、心からお悔やみを申し上げるとともに、再び同様の悲劇が繰り返されないよう早急の改善を求める。
健康に生きる権利、すなわち健康権は基本的人権として完全に保障されるべきである。それは同じ日本に住む外国人も等しく享受される権利と言える。この健康権の立場から意見を述べる。
長期収容の解消と収容者の心のケアを
先ずは「収容者」の心の健康についてである。長期に及ぶ期限のない、しかもこの先の展望すら与えられていない収容生活によって、精神的ストレスが増大することは言を俟たない。自殺者の15倍の自殺未遂者が、60倍の自殺念慮者がいるとする調査報告もなされている。メンタル不調者はそれらをはるかに上回るであろう。
入管収容所には多くのメンタル不調者がいると思われるが、それらの人々に対する対応はどうなっているのであろうか? 狭義には医師による治療や心理士によるカウンセリング等が必要である。言葉や習慣が違う中で適切な療養が受けられているのであろうか? さらに医学的な対症療法的対応では不十分であることは明らかである。最大のストレッサーである、長期収容と「日本に受け入れられていない」ことによる自己肯定感の低下を改善することなしに解決は困難である。
さらに自殺者の「同僚」等「遺された人びと」への心のケアも重要である。入管でどの様なケアがなされているのであろうか?
人間の尊厳を傷つける収容所の実態
また首都圏移住労働者ユニオンから提供された資料によると、2007年以降自殺者以外にも12名もの人が亡くなっている。病気になった時の不適切な対応はスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんの事件を見ても明らかである。「収容」という拘束状況の下で、収容者は、適時適切に医療を受ける権利が大幅に制限されている。治療機会の喪失による健康悪化と最悪な場合死に至ったことが推測される。健康診断とその事後措置が適切に行われているのかも疑問である。このような環境下で「人間としての尊厳」が傷つけられているのではないだろうか?
入管制度の改善は待ったなし
一方、このような対応をしている(させられている)医療者を含む入管職員の心の健康にも注意が必要である。基本的人権を柱とした日本国憲法の尊重擁護義務を制約して国家公務員として職に就いている者が、その真逆の対応をさせられているのである。精神の安定性を維持することは困難となっているのではないかと危惧する。
何重もの意味で、人びとの健康権を損なっている現行の入管制度の改善は待ったなしの課題である。
国際基準に沿った難民保護法制の早急な整備を!
~ 国連自由権規約委員会が日本政府に勧告 ~
国連の自由権規約委員会(以下、委員会)は昨年11月3日、日本国内の人権状況にかかわって日本政府から提出された定期報告に対する総括所見を発表しました。この中で委員会は、入管の収容施設の改善や、国際基準にもとづいた独立した人権救済機関の創設などを勧告しました。
日本の入管制度に世界の厳しい目
日本政府の定期報告は、今回で7回目となります。前回の報告に対して2014年に発表された委員会の総括所見では、強制送還中に死亡したガーナ人男性の事件(2010年3月)を重く見て、「退去強制中に不当な扱いの対象とならないことを保障するための全ての適切な措置」を求め、収容の合法性を裁判所が判定するよう勧告していました。
その後の状況について審査した委員会は、今回の総括所見の中で、2017年から2021年までの間に3人の被収容者の死亡を問題視し、入国収容施設における劣悪な健康状況による苦痛や、仮放免者の不安定な状況を「引き続き懸念する」とのべています。
委員会の勧告は、国際基準に則った包括的な難民保護法制の確立をはじめ、仮放免中の外国人への就労などの支援、独立した司法機関への不服申立制度、裁判所による強制収容の判断、収容期間の上限設定など、日本政府に全面的な改善を求めています。
勧告を力に世論と運動を高めよう
極端に低い日本の難民認定率に対しても、委員会は国際基準に則った包括的な難民保護法制を早急に整備するよう勧告しています。野党6党の共同で繰り返し提出してきた「難民等保護法案」の今通常国会での審議入りが求められます。
委員会がジュネーブで開いた記者会見で、「日本政府は外国人が不当な扱いを受けないよう、あらゆる適切な措置をとるべきだ」と訴えたように、今回の総括所見は、度重なる勧告にもかかわらず、いっこうに改善が進まない日本の入管制度に厳しい目をむけたもので、日本政府への国際的な批判はまぬがれません。
LUMの事務所にも、難民申請が許可されずに仮放免中の外国人が相談に訪れてきます。その誰もが命の危険をくぐり抜け、一筋の希望を持って日本に来た人たちです。その希望を門前払いにする日本政府の姿勢は許せません。
今回の勧告で示された国際世論を背景にして、引き続き国内での世論と運動を強め難民保護をはじめ入管行政の改善を勝ち取っていく必要があります。
第22回定期大会を開催
今年も移住者との交流会は自粛
12月14日(水)、LUM第22回定期大会が行われました。来賓として全労連から布施恵輔事務局次長、東京地評から柴田和啓労働相談センター室長にご出席いただき、ご挨拶を受けました。
本多書記長から「今年度も多くの労働相談がよせられた。労災、賃金未払、傷病後の職場復帰、不当な逮捕などこれまでにないほど相談は多岐に渡ったが、すべてに真摯に対応してきた。来年度に持ち越されたケースもあるが、できるだけ早い対応を心がけ、移住労働者の権利を守る活動を進めていく」「専門部を確立し、組織化も視野に入れた活動をしていく必要がある」「入管法改定案が再提出される危険性がある。すべての移住者の人権擁護の活動を、幅広い団体と力を合わせてなお一層取り組んでいく」「事務所を移転したことによって、活動が格段にやりやすくなった」と活動報告および運動方針案が提案され、全員の賛成で採択されました。
依然としてコロナ新規感染者が増加傾向にあったことから、今年も大会後の移住者を含めた多国籍料理の楽しい交流会は中止せざるを得ず、大会参加者だけでささやかな交流会を行いました。来年こそ東京労働会館で盛大に交流会をやりたいものです。
2023年度役員
執行委員長 松澤 秀延
副執行委員長 (全国一般より選出)
書 記 長 本多 ミヨ子
会 計 (書記長兼任)
幹 事 大熊 博
海野 博
黒田 健司
田波 紀夫
山口 文昭
会計監事 久保 桂子
色部 祐
協 力 幹 事 柴田 和啓 (東京地評労働相談センター)
梶 哲弘 (全国一般)
森 治美 (全国一般)
書籍紹介
「入管問題とは何か」
《鈴木江里子・児玉晃一編著 明石書店・税込価格2,400円》
入国管理庁内で繰り返し発生する病死・餓死・自殺、殴る蹴る、手錠でつるすなどの暴行を鋭く告発し、その大本にある「全件収容主義」とは何かを解き明かします。
さらに外国人の人権を侵害する入管制度はどう形成されてきたか、その歴史的経過を明らかにしながら、世界の入管制度との比較、国際人権条約からみた問題点と改善策を、弁護士、研究者、支援者、入管収容経験者など、それぞれの立場から提案しています。
2021年に廃案になった入管法改定案が提出される危険性が高まっている現在、今後の運動を進める上で有意義な1冊です。
編集後記
フィリピン人女性Mさんの、復職問題と傷病手当金問題が解決したのは、大きな喜びでした。こんな「休む必要はないのに勝手に休んで証明してくれと言ってきた」と言わんばかりの悪意のある意見を書く医師に出会ったのは初めてでした。傷病手当金支給を健康保険組合が決める際は「医師の意見が絶対」と言ってもいいほど大きなウエイトを占めているのだそうです。どこからも収入の目処が立たず、Mさんは泣きの涙で暮らしていたのです。組合としても傷病手当金の代理人になったのは初めてで、それだけにうれしい決定でした。Mさんの「うわぁ、うれしい!ありがとうございました」の声が忘れられません。(本多)