LUM No.88 (23.7.1)

政府、入管難民法を強行採決
強制送還を許さない闘いはこれから

 迫害から逃れてきた難民を、命の危険のある国に送り返すなど、どういうふうに考えたら、この発想が出てくるのでしょうか。まったく理解に苦しみます。

 全国各地の大きな反対に背を向けて、6月9日「改正」入管難民法は成立しました。しかし、この闘いを終えるわけにはいきません。人間にとって1番大事な「人権」である「いのち」に係わることだからです。

 国会審議の中で、これまで政府が常に言っていた「一度難民不認定になった人でも難民審査官が再審査するから、見落としはない」という説明が、まったくデタラメだったことが明らかになりました。一人も帰さない闘いはこれからです。力を合わせて!

難民認定制度の恣意的運用を許すな

 法案の数々の問題点は、LUM87号(4/1付)で指摘してきた通りですが、衆参の国会審議を通して、この法律がいかに難民の命と人権を踏みにじる悪法であるかが、繰り返し明らかになりました。

 今回の法改正の必要性について政府資料は、「申請者の中に難民がほとんどいない」とする、2年前の国会での柳瀬総子難民審査参与員の発言を引用していました。ところが、111人の参与員の中で、難民審査の4分の1が柳瀬氏に集中し、1日平均で約40件もの審査が割り当てられ、その上「1年半で500人の難民と対面による審査をおこなった」との発言には、斎藤法務大臣ですら「不可能」と言わざるを得ない疑惑の実態が、野党の追及で明らかとなりました。

「認定すべき」との意見も法務大臣が却下

 一方で、長年難民審査に携わってきた阿部浩己参与員は、参議院の参考人質疑に出席、10年間で担当した約500件のうち40件弱で難民認定すべきとの意見を上げたものの、法務大臣により却下されたと証言しました。これらの事実は、柳瀬氏の発言は信頼できるものではないうえに、入管当局が意図的に、柳瀬氏に審査を集中させたという疑念まで生じさせています。

 本当に法改正が必要だったのか、その根拠さえ揺らぐなかで、どうしても改正法案を可決させたい岸田政権が、日本維新の会・国民民主党を取り込むまでして、有無を言わせず成立を強行したことは許せません。

法成立後もおさまらない批判の声

 4月下旬、国連人権理事会の特別報告者らが、法案の抜本的見直しを求める共同書簡を日本政府に送付しました。書簡は「迫害を受ける危険のある国へ送還してはならない」とする「ノン・ルフールマン原則」を損なうと指摘、国際的な人権基準を下回っているとの見解を示しました。法改正強行は、国際社会の非難はまぬがれません。

 法案審議の終盤になって、今年1月に大阪入管で酒に酔った医師が収容者を診察し、その後も医師が診察を続けていた事実が発覚しました。審議への影響を恐れてか、法務省はこの事実を隠していました。さらに、法成立後も、柳瀬氏への抗議の電話やメールが後を絶たず、NPO法人の名誉会長を退任する事態となっています。

 この法律は制定根拠がありません。すべて白紙に戻して、立民・共産など野党提出の難民保護法案等とあわせて、審議を一からやり直すべきです。


(投稿)送還対象者の妻からの訴え

私には夫と日本で生活する権利があります

 私の夫は、トルコ国籍のクルド人です。現在4回目の難民申請中で、入管施設には入国時と結婚後の計2回収容されています。日本に来て15年目、結婚して8年半になりますが、在留資格を得られないまま、ずっと仮放免の状態が続いています。悪しき入管法が成立してしまった今、送還の対象となってしまうため、非常に危惧しています。

 本来なら難民として認定されたいところですが、結婚を機に「日本人の配偶者等」の在留資格を取得したくアクションしてきましたが、成果は一向に見られません。普通に恋をして結婚し生活をして、残念ながら子どもは授かりませんが、世間一般の夫婦のように、月日を重ねてきました。周囲の誰もが夫婦仲の良さを認めてくださいます。日常会話は日本語で問題はなく、日本社会に溶け込み、生活基盤はしっかり出来ているのです。そしてなにより、妻である私は日本国民です。夫と日本で生活する権利があります。国の恣意的な判断で、私たちの人生を決められるのは納得がいきません。

国会議員を見極め、一票に責任持って投票を

 迫害や弾圧から逃れてきた夫を、母国に帰すわけにはいかないのです、絶対に! 私も他国に移住するなど望みません! 両親・兄弟のいない私にとって、夫はたった一人のかけがえのない家族なのです。ここ日本で、夫婦二人で静かに暮らして行きたいだけなのです。もうこれ以上苦しめず、速やかに在留を認めていただきたいと切に思っています。

 国会会期中、私は当事者の配偶者として、法案反対集会での発言、新聞社からの取材、国会傍聴などの活動をしてきました。そこでたしかに見えてきたことがあります。強行採決をされてしまいましたが、全国各地の市民による反対の声が廃案推しの議員の方々に届きひとつの輪となり闘ったこと、またその輪は継続していること。その反面、法案推しの議員の方々のあまりに酷い人権意識の低さと、民主主義の崩壊をまざまざと実感させられました。今度の選挙では有権者である私たちが、政治に関心を持ち、見極め、責任を持って投票しなければならないと思いました。


法務委員会傍聴記

 国会前では連日座り込みがつづくなか、LUMでは衆参の法務委員会を傍聴し、法案審議を監視してきました。松澤委員長と本多書記長の傍聴記を、感想を交えて掲載します。

責任逃れに終始した法務大臣

 入管法改正案が強行採決された事は大変残念であり、問題が集約されたような印象です。私はほぼすべての法務委員会を傍聴しましたが、傍聴して感じたことは、かみ合わない審議と、法務大臣の責任逃れに徹した答弁であり、難民認定は参与員の判断にお任せであることがわかりました。認定しない根拠については個別案件であり介入しないとして答えようとせず、反面、在留特別許可申請には理解を示す素振りでした。

 入管法は以前も何回も改正されましたが、現状は悪くなる一方で、仮放免制度は人権を無視した制度であるとの議論もなされないままです。 

 難民審査も1次・2次とも代理人なし録画・録音なし、通訳も入管が決めた人で、密室での誘導尋問がされている可能性があります。これが認定時の証拠の根拠になっているのではないか、疑いは深まるばかりです。(松澤記)

本質あらわした維新・鈴木宗男議員

 一番印象に残っているのは、参議院法務委員会での、鈴木宗男議員(維新)と仁比聡平議員(共産党)の、対照的な発言です。

 質問に立った鈴木宗男議員、はじめの頃の質問では「国益と人権のバランスが大事」などと言っていたのですが、審議も終わりに近づいたある日、ついに本音を出し「国益無くして人権無し!」と言い放ったのです。まるで戦前の国会を見ているようでした。他党の議員も傍聴席も唖然、「ええっ」という声が上がりました。

 仁比聡平議員の発言は最終日でした。法案の反対討論に立った仁比聡平議員は「この法案は人権侵害だ。人権にかかわることは数で決めてはいけないのです」と発言しました。国益のためには人権を無視してもいいと考える議員と、人権は一人一人が持っている一番大切なものだから数で押し通してはいけないと考える議員、その差は歴然としています。共産党がんばれ!の思いを強くしました。(本多記)


本多書記長の労働相談日記

(その1)インド人女性Kさん

労働審判で早期解決に喜び

 LUM84号で「出産後育児休暇を取りたいと言ったら、書いた覚えのない日本語の退職届を示され、『あなたはもう従業員ではありません』と言われたと相談に来た」と紹介したKさん、組合は会社と2回団交を持ちましたが、社長は「この退職届は本物だ」「本人は退職する意思を持っていた」との態度を崩さず、まったく進展しませんでした。

 そこで、Kさんと組合は労働審判に訴えました。なんと1回目の審判で和解案が出され、会社は抵抗しましたが審判員が説得、本人と組合が納得できる金額での和解となりました。

 審判員の説明では「この退職届を本人が書いたかどうかは別にしても、退職届だということを理解して書いたとは考えられない」とのことで、「書いた、書かない」から一歩踏み込んだ「どちらにしても内容がわかって書いたものではない」と認定したもので、会社の「本人のわかる言葉で説明した」との言い分を退けました。

 早い解決にKさんは大変喜び、「組合のおかげです。ありがとうございました」と感謝されました。よかったです。

(その2)インド人男性Cさん

労働時間が減っては生活できない

「労働契約書には、労働時間は週36時間と書かれているのに、突然24時間に減らされた」と相談に来たCさん。週24時間の賃金では、とうてい暮らしていけません。

 組合が「ただちに36時間にもどすように」と文書を送ったところ、すくに「申し訳ありませんでした。今後気をつけます」と返事が来て、すぐ解決しました。これぞ組合の力と、あらためて実感しました。

Pocket