(特集)入国管理 その施設、処遇、問題点
東京入国管理局(品川)、東日本入国管理センター(牛久)の実態から
【東京入管】
「病気の夫(クルド難民)の仮放免を認めて!」LUM組合員が訴え
突然収容された なぜ?理由は?・・・説明は一切なし
日本人女性SさんとHさんの夫、クルド難民のUさんとAさんは、2人とも現在、東京入国管理局(東京都品川区)に収容されています。
2人とも難民申請は不認定になったのですが仮放免が認められ収容はされていませんでした。それが突然仮放免の更新が認められず、収容されてしまいました。更新不許可の理由はまったく説明されませんでした。
2人は現在体調を崩し、医師の治療が必要な状態です。SさんとHさんは「クルドを知る会」の支援者に支えられて署名活動などを行ってきましたが、さらに大きな支援を求めてLUMに加入しました。
LUMはこれまでも多くのクルド人の労働相談を解決してきています。UさんAさんの一日も早い仮放免のために力を尽くす必要があります。これは、人権問題であるとともに人道上の問題です。
心臓発作や脳腫瘍など重い病気をかかえた2人の収容は非人道的
クルド人のUさんは2008年に来日、Sさんとは2015年結婚しました。Sさんの家族は理解があり暖かくクルド人である夫Uさんを認め、Uさんのビザが認められる事を願ってきました。
2017年11月2日、Uさんは仮放免更新手続のため東京入国管理局に出向き、そのまま収容となりました。理由はいっさい示されず、「不許可」と書かれた紙を見せられただけでした。半年以上の収容所生活で、心臓発作やストレスからの精神不安定で不眠・食欲不振などが続いています。妻のSさんは、仕事しながら休日や夕方に1日も早い解放を訴えて、支援者とともに嘆願書や署名活動を行っています。
一方、10年以上前に来日したAさんは、仮放免中の2009年、日本人のHさんと結婚しました。2011年にてんかん発作で入院し、脳腫瘍である事が判明、2012年に手術を受けましたが摘出できない腫瘍があり、放射線治療を受けていました。
言語や記憶の障害が残りましたが、週3~4回のリハビリを熱心につづけ、日常生活が可能なまでに回復、投薬と年2回のMRI検査を受けていたさなかの2018年2月に突然、東京入管に収容されました。
病人を収容し、治療や検査を受けられないというのは、あまりにも非人道的な扱いです。入管局はただちに収容をやるべきです。
【東日本入国管理センター】
あいついで自殺や自殺未遂が発生 長期収容に100人以上が抗議のハンスト
インド人のクマルさんはまだ32歳で自殺しました。前日に仮放免の不許可が東日本入国管理センターで告げられ、将来に絶望したものと見られています。
クマルさんは出身地での迫害の恐れを抱き、難民申請をしましたが不認定になり、昨年7月に収容されました。昨年12月には品川の東京入管局から、茨城県牛久市の東日本入国管理センターに送られ、仮放免の申請をしていました。
通常仮放免は2週間程度の審査で決定がでるのですが、クマルさんは3ヵ月も待たされました。その結果が不許可だというのですから、生きる気力をなくしてしまったことは容易に想像できます。インドの遺族は、日本政府に対して真相の究明を要求しています。
また、自殺未遂した40代ブラジル人男性は、2年以上収容されていました。長期収容に耐えられなくなったと考えられます。
こうした命さえも奪う長期拘束に抗議し、100人以上の収容者がハンガーストライキに入り、ハンストは約1週間続きました。
収容所の改善を求めて衆院法務委員会で政府を追及
上川法務大臣が「所要の対策に取り組みたい」と答弁
5月9日の委員会質疑で共産党の藤野衆議院議員は、収容する必要がない人まで収容する「全件収容主義」と長期収容の中で、自殺者が出ていることを指摘し、入管内の処遇の悪さ特に医療アクセスの問題を鋭く追及しました。
質疑をとおして、全国17カ所ある収容施設で、常勤の医師が配置されている施設は、東日本入国管理センター1か所だけで、しかも昨年4月にようやく1名だけ配置されたことを入管当局みずからが明らかにしました。残りの16カ所のうち11カ所は、非常勤の医師さえいないこともはっきりしました。
藤野議員は「刑務所でも1名以上の医師が配置されているのに、この状態であることをどう考えるか」と質問し、上川法務大臣は「法令に基づく強制的な措置として身柄を拘束するのだから、国の責任において被収容者の健康管理を適切に行うべきだ」と答弁しました。
さらに16日の質問では、自殺未遂した男性は2年以上収容されていたことを指摘し、「多くの収容者がいつまで収容されるのか分からないと精神的にも追い込まれている。いわれのない長期収容はやめるべきだ」と強く求めました。
藤野議員はまた、収容所を視察し、意見を述べる第三者機関である入管収容所等視察委員会が施設の医療整備などを提起しているのに法務省が対応していないのが問題だとして、「自殺を防ぐことは待ったなしの緊急課題だ」と早急な対策を強く求めました。
上川陽子法相は「所要の体制整備に取り組んでいきたい」と答えました。
「骨太の方針」を決定 政府が検討する「特定技能(仮称)」って何?
技能実習終了後、さらに5年間働かせるために新たな在留資格をつくる
これまで政府は、「技能実習制度は、開発途上国への技術移転・国際貢献だ」との建前を言い続けてきました。だから技能実習生は帰国した後、同じ業務内容で再度日本で働くことはできないことになっていたのです。
日本で身につけた技術を、母国で生かすための制度ですからそれは当然のことです。その建前をなし崩し的にほごにしたのが、オリンピック・パラリンピックによる人手不足を口実にした、建設分野への「特定活動」の在留資格による就労でした。しかし、これはあくまで一時的なものとされていました。
6月に閣議決定された「骨太の方針2018」では、人手不足を外国人労働者で解消するために、新たな在留資格を来年をめどに設けることが盛り込まれました。考えられている新たな在留資格「特定技能(仮称)」は、5年間の技能実習を終えて帰国した後、さらに最長で5年間同じ業務内容で就労できるようにするというものです。
一時的なものが恒常的な措置になり、これまでどれだけ批判されても「技術移転だ、国際貢献だ」と言い張ってきた政府が、この建前をみずから壊すことになります。その上、技能実習を経験していなくても、実習修了者と同水準の技能を身につけている人にも道を開くというのですから、完全に安く働いてくれる労働者がたくさんほしいという、政府や経済界のホンネをあらわにしています。
家族帯同はダメ 10年間ひたすら働けと言うのか
安倍内閣は、人手不足が進む農業、介護、建設、造船といった分野での就労を想定し、出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正案を秋の臨時国会に提出する方針です。
在留期間が延長されても、技能実習生と同様に、家族を日本に呼び寄せることはできません。実習期間と合わせて10年間も、家族と離れて暮らす生活を強いることになります。これは人権上・人道上大きな問題で許されません。
【労働相談その後】
インド人のラムさん 片足は切断されても「やっと痛みがなくなった」と感謝
ラムさんがLUMに相談に来たのは2009年1月でした。
すでに労災として認定されていましたが、なかなか思うように治らないやけどに気持ちが落ち込んでいました。それから8年半、休業補償の申請や手術の付添、在留資格更新手続きの援助からアパート入居の手伝いまで、LUMが支援をしてきました。
しかし、ラムさんのやけどはどうしても治らず、病院も何回も変わりましたが、今度こそと期待を持って受けた手術でも傷口は塞がらず、そのたびにがっくりしてきました。
なにより辛かったのは痛みです。痛み止めも数時間しか効かず、夜中に痛みのために2回も3回も起きてしまう日々でした。
この苦しみを終わりにしたいと、ラムさんは片足切断を決意しました。現在は、ようやく痛みもなくなり、義足で歩けるようにがんばっています。LUMのこれまでの支援に感謝しながら。
編集後記
日本の入管施設の処遇は、本当に人権などどこにあるというくらいのひどい状況です。刑務所よりひどいという人もいるのですから。国籍も宗教も違う人たちを、1つの部屋に何か月も何年も入れておくのですから、ストレスがたまり身体的精神的に追い詰められ体調が崩れるのはあたりまえです。
その大きな原因の一つが、いつまでこの状態が続くのかわからないことです。刑務所には刑期があり、いつになったら出られるかを自分で知っています。受刑中の態度がよければ早く出所できることもわかります。2018年4月に東日本入国管理センター内で自殺したインド人男性は前日に仮放免却下を知らされ、5月に同じ東日本入国管理センターで自殺未遂に追い込まれたブラジル人男性は2年以上も収容されていた、この2人は、未来に対する希望が持てないときに人は生きられないということを強烈に訴えています。
入管施設は、罪を犯した人が入るところではありません。「正門を出る以外はできるだけ自由を保障する」というイギリスの入管に対する考え方と施設・処遇のあまりの違いに愕然とします。