人権無視の入管法改悪に反対する!
改悪は外国人だけの問題ではない
開会中の通常国会では、入管法改定法案が審議されています。この法案は、人権を無視した生命の危険さえ危ぶまれる重大な問題を含んでいます。何としても阻止しなければなりません。
名古屋入管施設内で3月に亡くなったスリランカ人ウィシュマさんの問題を明らかにしないで、さらに入国管理庁の権限を強めることがあっては、第2第3のウィシュマさんが必ず出ます。
技能実習生の奴隷的状態、外国人労働者の劣悪な労働環境、そして日本人の派遣切りなどとも根は同じ「人権侵害」です。入管法の改定を阻止することは、日本の民主主義を守る闘いでもあるのです。
人権無視、入管権限強化の改定案の問題点
1.生命の危険のある人を国に送り返す!
現行法では難民申請は何度でも可能です。申請が審議されている間は、本国に強制的に送還することはできません(送還停止)。そうしたことから、不認定になると申請を繰り返すことで何とか日本に留まってきました。
これは難民の人権を考えれば当然の措置です。本国に帰されたら命の危険さえあり、帰るに帰れないのです。それを改定法案は、3回以上の申請者には原則送還停止を認めず、送還を拒否すれば刑事罰を科すとまでしているのです。
2020年末現在で送還忌避者(理由があって帰国できない人など)は3103人で、そのうち1938人が難民認定申請中で、3回目以降の申請者は504人です。改定案が成立すればこの504人は、逃げてきた国へ送り返される危険があります。
まだ3回にまで達していない難民も、今後、不認定になる恐れが大きいことから、すべての難民認定申請者の命にかかわる大改悪です。
2.「監理措置制度」の新設
改定案では、仮放免に代わり「監理措置」の新設が提案されています。同制度は、入国管理庁が弁護士や支援団体を「監理人」に指定し、監理人は収容者の生活などを監督・報告する義務を負い、違反すれば10万円以下の過料を科すというものです。
NPO法人『なんみんフォーラム』が支援に関わる弁護士や支援団体から意見を聴取した結果、「監理人を引き受けたいか」の質問に90%が「なれない・なりたくない」と回答しました。
善意で支援している人に監視を強要していること、罰則が規定されていること等の理由から「管理人」のなり手不足は必至で、なり手がいなければ結局長期収容が続くことになります。これまでより良くなることはありません。
3.在留特別許可の厳格化
現在、在留特別許可が認められない「ガイドライン」の例として、「凶悪・重大犯罪により実刑に処せられたことがある」「違法薬物及びけん銃等、いわゆる社会悪物品の密輸入・売買 により刑に処せられたことがある」などがあげられています。
ところが改定案では、「1年を超える懲役・禁錮の実刑前科等の場合、原則許可しない」と厳しくしています。これまで3年以上の懲役刑を受けた人でも、日本で育ったなどの事情を考慮して、在留特別許可が認められたケースもありましたが、これが認められなくなる恐れがあります。
人権侵害の温床「全件収容主義」はただちに見直すべき
長期収容問題を根本的に解決する道筋
○ 全件収容主義とは
現行の入管法では、退去強制手続の対象者(在留資格のない人)はすべて収容することとなっています。つまり在留資格のない人の家族(妻、子ども、病気の人、高齢者など)も収容することになっていて、今収容されていないのは例外的に仮放免制度により身柄を解放されることになっているに過ぎないのです。
2020年9月の国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会(以下、作業部会)による見解では、「収容は、収容の必要性を個別に評価した上での例外的な最終手段でなければならない」とされています。長期収容問題の解決を真に望むのであれば、まずは全件収容主義を撤廃し、収容はあくまで例外的な措置とすべきです。
また、収容する場合でも期間に上限を設けるべきです。作業部会は「無期限の入管収容は、自由権規約第9条(恣意的な拘禁の禁止)自由権規約第9条(恣意的な拘禁の禁止)に違反する」とはっきりのべています。
○ 収容するならば司法審査は不可欠
収容は身体の自由を奪うという基本的人権の重大な侵害を伴うものであるにもかかわらず、収容措置に司法の審査は必要とされず、入国管理庁の判断のみで行われています。
作業部会はその見解の中で、「日本の入管収容は司法審査による救済が定められていない点で、自由権規約第9条第4項(自由を奪われた者が裁判所で救済を受ける権利)に違反している」と述べています。司法による収容の必要性が個別的に審査されることが不可欠です。
○ 飛び抜けて低い難民認定率を改めよ
難民認定の手続きが改められなければ、現在でも世界と比較して格段に低い日本の難民認定率も変わらないでしょう。欧米諸国の難民認定率は、ドイツ25.9%、アメリカ29.6%、カナダ55.7%などで、クルド難民にしてもこれらの国では難民と認められています。その一方、日本では2019年の難民申請者10,375人のうち認定は44人で、認定率はわずか0.4%にとどまっています。
「入管法改定案は人権上の懸念が残る」
国連人権理事会作業部会などが厳しく批判
国連人権理事会の「恣意(しい)的拘禁作業部会」と「移住者の人権」「思想信条の自由」「拷問など」に関する3つのテーマの各特別報告者は、2021年3月31日付で共同書簡を日本政府に送付しました。
昨年9月に「恣意的拘禁作業部会」が日本政府に「入管の長期収容は国際人権法違反」との意見書を出しましたが、今回は作業部会に加えて3つのテーマの特別報告者との共同書簡であり、さらに重みのあるものになりました。特にこの書簡は現在審議中の法案に関する懸念であり、かなり異例です。それだけ法案に対する国連の懸念が大きいことを示しています。
自由権規約では、自由が原則、収容が例外と定めている
改定案について書簡は「収容が依然として強制され、新たな措置は入管担当者の裁量で例外として適用されるに過ぎないことに懸念を表明する。日本も批准している自由権規約では、身体の自由が原則で、収容は例外的だと定めている」として、人権上の懸念が残ると指摘し、監理措置の欺瞞性を鋭く見抜いています。
「ノン・ルフールマンの原則」に違反する恐れ
また、申請が3回を超える難民申請者らの送還を可能にする条項は、迫害を受ける危険のある国へ送還してはならないとする「ノン・ルフールマンの原則」などに違反する恐れがあるとして「深刻な懸念」を示しています。
これに対して上川法相は「一方的な見解公表には抗議せざるを得ない」等と述べ、全く反省の姿勢を見せていません。このまま法案が通れば、日本は人権最悪国になってしまいます。ことは人の命にかかわります。止めなくてはなりません。
法案の問題点を学ぼう-学習会開催
4月19日(月)、全労連と共催で「許すな!人権侵害!入管難民法案 学習・決起集会」を開催しました。クルド難民弁護団の一員で外国人労働者弁護団事務局でもある樋川雅一弁護士(川越法律事務所)を講師に、入管法案の問題点を学習しました。
特に参加者の胸を打ったのは、2人の当事者の発言でした。それぞれ5回目と7目の難民申請中であり、送り返される危険性のある方達でした。どうしても廃案にしなければとの決意を新たにした学習会でした。
要請文を持って衆議院法務委員に要請
4月20日(火)、前日の学習会で提起された衆議院法務委員への要請行動に参加しました。衆議院の法務委員は35名、8グループに分かれ、法案の非人道的な内容を説明し、廃案にするよう訴えました。ほとんど秘書対応でしたが、マスコミが大きく取り上げていたこともあり、比較的よく聞いてくれました。終了後、第2議員会館前で行われていた、移住者と連帯するネットワーク(移住連)の座り込みに参加している人たちとエールの交換をし、がんばろうと決意を固め合いました。
衆議院法務委員へのFAX要請
4月28日(水)、衆議院の法務委員宛「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱したもの等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案の廃案を求める要請書」と題するFAXを委員長名で送付しました。ながい法案名ですが、これが正式名称です。いつ採決されてもおかしくない状況の中でできることをやりたいとの思いからでした。
移住連の国会前座り込みに参加
移住連が毎日衆議院第2議員会館前で座り込み(移住連は、シットインといいます)を続けています。毎日たくさんの人が、少しの時間でもとの思いで入れ替わり立ち替わり参加しています。著名人の参加もあり、ジャーナリストの取材も多くあります。LUMとしても参加できる人は参加しようと決め、多いときは6人で参加してきました。
最近の労働相談より
その1 パワハラ裁判も視野に今後の対応を検討
インドに本社を置く多国籍企業東京支社で働いていたTさん、1年以上にわたり、仕事ができない状況に置かれました。東京支社の仕事はいろいろな会社から技術的なプロジェクトを請負い、それを完成させるというものです。1つのプロジェクトが終わってすぐに次のプロジェクトが入ればいいのですが、そうでないこともあり、その時は支社で待機となります。待機が長く続くと退職勧奨が始まります。
Tさんの場合は、なかなか次のプロジェクトが入りませんでした。この会社は世界展開しているので、仕事先は日本だけではなくインドやアメリカのこともあります。日本での仕事がないので、インドへ行くようにと言われたTさん、「家族全員永住者(妻と子ども、2人ともインド人)なので、家族を連れてインドへ行くことは出来ないが、在籍出向なら世界中どこで働いてもOK」と考えていました。
組合は在籍出向させよと交渉し、会社も「在籍出向」を認めていたはずでしたが、なかなかプロジェクトを確定せず、再三の要請に対して、「在籍出向は今までに例がない」「移籍出向でなくてはだめ」「当然賃金や労働条件も現地のものとなる」と態度を変えてきました。組合が「インドの平均賃金はどのくらいか」と聞くと、「年収約148万円」との答えでした。Tさんはこれまで上司からの言葉によるパワハラもあり、「裁判も辞さず」との決意を固めました。
その2 理不尽な理由で突然解雇
Rさんは若いベトナム人女性です。ベトナムの大学で国際ビジネス学を学び2014年に来日、外資系企業で4年間働いた後、再度日本の有名大学の大学院で2年間国際ビジネス学を学び2020年9月に卒業し、今年3月建設関係の会社に就職しました。
ところがこの会社、ちょっと変でした。それまでいた事務員4人をRさんが入社後すぐに解雇したのです、4人一度に。それも理由は「あの人達は会社のお金を盗んだから」との説明に、Rさんはちょっといやな気分がしたそうです。
本当の解雇理由は技能実習生?
働き始めたばかりの4月23日、突然「会社をやめなさい」と言われました。理由は「履歴書に虚偽の内容があった。ビジネスコミュニケーションと書いてあるが実際には電話での聞き取りがほとんどとれなかった」というもの。しかしRさんは、日本語能力試験 JLPT N2に合格しています。JLPT N2はビジネスコミュニケーションレベルと言われていますから、虚偽ではありません。
また「私のポジションは経営計画と事務ですが、入社後、会社はそれまでいた事務員全員を解雇してしまったので、仕事がほとんどないです。毎日、書類スキャンのようなことをしました。さらに、オフィス掃除もやるように言われました。それで、私に能力がないという結論は根拠がないと思います」と言っています
この会社は5月にベトナム人技能実習生を入れる予定だったようですが、Rさんがいた間にその話はありませんでした。本当の解雇理由は実習生が入らなくなったことかもしれないと勘ぐりたくなります。
会社に対して解雇予告手当を請求
Rさんは、「もうこの会社はいやなので辞めるのはいいのですが、退職届を書かされていて、『入管法の3ヶ月仕事が見つからないと退去強制させる、に当たる』かもしれないので、会社に解雇証明を書いてもらいたいのです。そうすれば3ヶ月を超えても帰らなくても大丈夫ですから」と言いました。これが、組合を訪ねてきた理由でした。
本多書記長は「2週間以上働いているので、解雇予告手当を請求できる」「3ヶ月経っても仕事が見つからない場合には、入国管理庁へいっしょに行って説明するから、退去強制の心配はいらない」と話すと、「安心しました」と笑顔になりました。組合は会社に解雇予告手当の請求をしました。返事はまだですが、LINEなどの証拠もあるので、必ず払わせます。
(おめでとう)タトゥー解雇のMさん、裁判で和解へ
小さなタトゥーを理由に試用期間満了で解雇された台湾女性Mさん、本訴で闘っていましたが、このほど裁判所の和解勧告を、原告、被告双方が受け入れ解決しました。このケースは会社が頑迷で団体交渉を拒否してきましたので、組合は労働審判に訴えましたが会社はこれも拒否し、会社から本訴へ持っていったケースでした(LUM77号参照)。
会社としては自信満々だったのでしょうが、タトゥーは小さなハートとハングル1文字に過ぎず、3回の面接でも面接官が気づかなかったほど人目につくものではありません。それなのに、「タトゥーは解雇」という就業規則を楯に解雇してきたのです。
昨今の国際化の中でごく普通に見られる程度のタトゥーであり、個人の自由の範囲です。タトゥーも文化の1つです。2月の本人尋問には、コロナ禍で傍聴が制限されている中、多くの人が傍聴に来てくれ、Mさんもとても喜んでいました。自分の問題が解決したので、今後は通訳などでLUMの活動を手伝ってくれるそうです。よかったです。